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第332回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 1月16日(木) 9:30 - 12:00
Date : Thu., 16 Jan. 9:30−12:00 
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂
Place : Institute of Low Temperature Science, 3F Auditorium

発表者:西川 はつみ (環オホーツク観測研究センター / 博士研究員)
Speaker:Hatsumi Nishikawa (Pan-Okhotsk Research Center / PD)
題目:北太平洋移行領域における亜熱帯-亜寒帯を繋ぐ表層流経路
Title:Surface water pathways in the subtripical-subarctic intergyre frontal zone of the western North Pacific

発表者:宮地 友麻 (大気海洋物理学・気候力学コース/D3)
Speaker:Yuma Miyaji (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics / Doctoral Course Student D3)
題目:マルチモデルデータを用いた内部変動の抽出による十年規模におけるインド洋-太平洋海盆間相互作用に対する解析
Title:Analysis of the Indo-Pacific cross-basin interaction on decadal time scale by extracting internal variability using multi-model data


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北太平洋移行領域における亜熱帯-亜寒帯を繋ぐ表層流経路 西川 はつみ (Hatsumi Nishikawa) 発表要旨:

 北太平洋移行領域は亜熱帯水と亜寒帯水が複雑に混ざり合う海域であり, 大気海洋相互作用や海洋混合層形成などに対して,重要な役割を担っている といえる。近年では,移行領域における亜熱帯水を亜寒帯域へと運ぶ準定常 的な流れ(磯口ジェット)の重要性やその形成メカニズムが明らかになって いる。一方で,移行領域内部は渦運動エネルギーが小さい海域であり流れも 非常に弱いため,亜熱帯と亜寒帯を繋ぐ海水の輸送経路は未解明な部分が多 い。本研究では,亜熱帯水の亜寒帯海域への輸送経路を探るため,漂流ブイ 観測と粒子追跡を用いたラグランジュ的な視点から,北太平洋移行領域の形 成過程について明らかにすることを目的とする。  漂流ブイ観測では,磯口ジェットJ1を横断して複数基のブイを投入した。 特徴的な挙動としては,ほぼ同じ経路をたどった数基のブイが移行領域内部 で南北方向に突然分岐したことが挙げられる。また,亜熱帯側 (亜寒帯側) に 投入したブイの亜寒帯域 (亜熱帯域) への輸送が見られ,これは亜熱帯-亜寒 帯の海水交換を示唆している。観測は2015年と2017年に行ったが,どちらの 年でも分岐する動きや海水交換の様子が観測されており,移行領域の構造の 複雑さが明らかとなった。次に,粒子追跡実験により,黒潮起源粒子と親潮起 源粒子の輸送経路や混合割合を計算した。移行領域内部では黒潮起源の粒子が 約6割を占めており,強いフロント構造の形成に寄与していることがわかった。 一方で,気候値の流速場を用いて同様の解析を行った場合には,移行領域に入 り込む黒潮粒子はほとんど存在しなかった。このことから,移行領域の形成に は時間変動場が非常に重要であることが示唆された。

マルチモデルデータを用いた内部変動の抽出による十年規模における インド洋-太平洋海盆間相互作用に対する解析 宮地 友麻 (Yuma Miyaji) 発表要旨:

 熱帯太平洋の十年規模変動は、全球規模の気候変動に影響を与えることが知られており、 海盆間相互作用という観点でも注目されている。十年規模におけるSSTとインド洋SSTは、 年代によって相関関係が反転することが指摘され(Han et al.,2014など)、多くの議論がされ てきた。しかし、温暖化の影響を取り除く際に線形トレンドを差し引くのではなく、マルチ モデルデータのアンサンブル平均を差し引くことで、相関関係の反転は解消されることが 示された(Dong and McPhaden, 2017)。本研究では、CMIP5のマルチモデルデータを用いて 観測データから内部変動を取り出すことで、熱帯太平洋の十年規模変動がインド洋SSTに 与える影響を明らかにし、そのメカニズムについて議論する。また本発表では、内部変動を 取り出す手法による結果の違いについても議論する。  正のIPO期間には、熱帯太平洋のSST正偏差に伴い、インド洋では全域的なSST正偏差が みられ、水温偏差は海面から水温躍層深度に及んだ。これらの水温偏差は、海上風速の上昇に 伴う表層循環の強化によるものであることが示唆された。インド洋上では、北半球で西風、 南半球で東風が平均的に吹いており、エクマン流によって、北半球の高温な水を南へ移流し、 全域的に表層の水温を上昇させる働きを持つ南北循環が存在している。正のIPOに伴いこのよ うな循環が強まることで、インド洋の表層水温が上昇したことが示唆された。

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