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第328回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 10月10日(木) 9:30 - 12:00
Date : Thu., 19 Sep. 9:30 − 12:00
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂
Place : Institute of Low Temperature Science, 3F Auditorium

発表者:辻野 智紀(地球環境科学研究院/博士研究員)
Speaker:Satoki Tsujino (Faculty of Environmental Earth Science/Postdoctoral Researcher)
題目:雲解像モデルで再現された台風 Haiyan (2013) における渦位の混合と急発達
Title:Potential vorticity mixing and rapid intensification in numerically simulated Typhoon Haiyan (2013)


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雲解像モデルで再現された台風 Haiyan (2013) における渦位の混合と急発達 辻野 智紀 発表要旨:

 台風を含めた熱帯低気圧は, 熱帯海洋上で発生・発達する気象擾乱である. 成熟した台風は中心に眼と呼ばれる雲のない領域をもち,そのまわりをリン グ状の活発な積乱雲群 (壁雲) が取り囲んでいる. 眼の対流圏上層は周囲より 気温の高い暖気核構造となる.また台風における強い低気圧性循環は壁雲の 対流圏下層に極値をもつ. これは温度風の関係を通して上空の暖気核構造に 対応する.暖気核の発達は静力学バランスから中心気圧を低下させ, 大気境界 層での台風中心に吹き込む流れを強化する.下層での吹き込み強化は外から の角運動量輸送を増加させ, 台風の低気圧性循環を強化 (発達) させる. 一方, 暖気核の強化を含む急速な中心気圧の低下プロセスは未解明な点が多い.  Hendricks and Schubert (2010) は水蒸気の凝結加熱を無視した大気での, 理想的な台風渦の 3次元時間発展シミュレーションを行った. 彼らは壁雲に ピークをもつリング状の正渦位が, 順圧不安定によって眼の中に移るように 再分配されること(渦位の混合) を示した. 渦位の混合に伴う眼での渦位の増 加は, 力学的調節を通して中心気圧の低下と眼の昇温 (力学的昇温)を引き起 こすことも示された. この結果から彼らは, 渦位の混合が急発達における中 心気圧低下に重要であると主張している.しかし彼らの研究は壁雲での凝結 加熱を考慮していない. 本研究の目的は,現実的な台風の急発達における渦位 の混合の中心気圧低下への寄与を雲解像シミュレーションによって定量的に 評価にする. 対象は 2013年にフィリピンに上陸し, 多くの被害を及ぼした台 風 Haiyan である. 渦位収支解析から先行研究と同様に,壁雲のリング状正渦 位が眼に輸送されていることが示される. また渦位逆変換から, 台風中心での 正渦位が中心気圧の低下の約 50 %を説明しうることを示す. 本研究は現実台 風の急発達の開始時においても, 渦位の混合が中心気圧の低下に大きく寄与 したことを示唆する.

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連絡先

豊田 威信(Takenobu Toyota)
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