****************************************************************************************************************

第320回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 4月18日(木) 9:30 - 12:00
Date : Thu., 18 Apr. 9:30−12:00 
場 所: 環境科学院D201室
Place : Env. Sci. Bldg. D201

発表者:中山佳洋 (低温科学研究所/助教)
Speaker:Yoshihiro Nakayama (Institute of Low Temperature Science/Assistant Professor)
題目:何が西南極アムンゼン海の棚氷融解をコントロールするのか?
Title:What drives ice shelf melting in the Amundsen Sea, West Antarctica

発表者:伊藤優人 (低温科学研究所/博士研究員)
Speaker:Masato Ito (Institute of Low Temperature Science/Postdoctoral Researcher)
題目:巡視船「そうや」によるオホーツク海でのグリースアイスの観測
Title:Grease ice observations in the Sea of Okhotsk with the icebreaker Soya


****************************************************************************************************************

何が西南極アムンゼン海の棚氷融解をコントロールするのか? 中山佳洋 (Yoshihiro Nakayama) 発表要旨:

 西南極に位置するアムンゼン海、ベイリングスハウゼン海では、周極深層水と呼ばれる 水温1-1.5 ºCの比較的暖かい水塊が陸棚上へ流入し、棚氷を融解している。棚氷厚の減 少は、氷河をせき止める効果の弱化につながり、氷河流動を加速させ、大陸から海への 氷の流出を促進する。このようにして、近年、西南極氷床は年間約0.3 mmの海面上昇に 寄与していると考えられている。さらに、アムンゼン海、ベイリングスハウゼン海での 棚氷融解がその下流での広域な低塩化を引き起こす可能性も指摘されている。今回は、 今年最初のeoasセミナーということで、「南極はどういうところなのか?」「南極は気 候変動を考える上でどうして重要なのか?」といった非常にイントロダクトリーなとこ ろから、アムンゼン海の棚氷融解に着目した近年の発展的な研究まで幅広く紹介する。 Ice shelves and glaciers of the West Antarctic Ice Sheet are melting and thinning rapidly in the Amundsen Sea and Bellingshausen Sea, with consequences for global sea-level rise and ocean circulation. For example, approximately 10% of the observed sea-level rise has been attributed to the thinning of the West Antarctic Ice Sheet between 2005 and 2010, and the melting of ice shelves in the Amundsen Sea and Bellingshausen Sea will freshen the shelf water locally as well as downstream in the Ross Sea, which may influence the global thermohaline circulation. As this is going to be the first seminar talk for this year, I will start my seminar from very introductory level explaining “why Antarctica is important for global climate”. Then, I will review recent studies on warm ocean water intrusions into West Antarctic ice shelf cavities.

巡視船「そうや」によるオホーツク海でのグリースアイスの観測 伊藤優人 (Masato Ito) 発表要旨:

 海氷は海水が結氷した氷である。静音環境下では海水は表面から静かに下方成長をするが、 擾乱環境下ではフラジルアイスと呼ばれる小さな海氷が海中で生成し、海中を漂う。このフ ラジルアイスが自身の浮力で海面に浮上し、集積して形成されるフラジルアイスと海水の混 合物がグリースアイスである。グリースアイスは新成氷に分類される流動的な海氷であり、 この氷が海面で固化すると固氷盤となる。したがって、グリースアイスの性質は海氷の成長 過程を考える上で重要となる。しかしながら、海氷域での現場観測は立地的な条件から難し いうえに、擾乱環境で形成されるグリースアイスの観測例は極めて限られる。したがって、 自然界におけるグリースアイスの厚さやfrazil ice concentration(グリースアイス中のフ ラジルアイスの体積占有率)といった基礎的な性質さえ明らかとなっていない。そこで2015 – 17年、19年にオホーツク海沖においてグリースアイスの基礎的な物理性質に着目した現場観 測を実施した。これらの観測は、海上保安庁の協力の下で巡視船「そうや」によって南部オ ホーツク海沖で毎冬実施されている海氷観測の一部として行われたものである。グリースア イスは氷盤間の隙間などから採取され、その厚さは概ね10 cm程度であった。過去の研究例 からリードで発達するグリースアイスの厚さと風速との関係式が提案されているが、本観測 による結果はこれとは整合しなかった。その要因として、南部オホーツク海でグリースアイ スが形成される環境はリードやポリニヤといった氷況とは異なることが考えられる。Frazil ice concentrationはグリースアイスの厚さや気温等に依らず25 – 30%程度であった。この値 は過去の室内実験や現場観測による報告例と整合的である。グリースアイス中のフラジルア イスの形状と大きさについても測定を行った。フラジルアイスは複数の氷片が焼結した大き さミリメートル程度の楕円盤で、その長軸長:短軸長の比(アスペクト比)はおおよそ 2:1となった。後者については南大洋で採取したサンプルにも見出され、グリースアイス に対して一般的に成り立つ性質である可能性がある。  

-----
連絡先

豊田 威信(Takenobu Toyota)
mail-to: toyota@ees.hokudai.ac.jp