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第312回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 8月31日(金) 10:30 - 12:00
Date : Fri., 31 Aug. 10:30−12:00 
場 所: 環境科学院D201室
Place : Env. Sci. Bldg. D201

発表者:中村 啓彦 (鹿児島大学水産学部/教授)
Speaker:Hirohiko Nakamura (Faculty of Fisheries, Kagoshima University/Professor)
題目:黒潮流路全体を俯瞰的にみた黒潮流速の季節変動特性 ―観測データ解析と数値計算―
Title:Seasonal velocity variation over the entire Kuroshio path – Observational data analysis and numerical experiments –

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黒潮流路全体を俯瞰的にみた黒潮流速の季節変動特性 ―観測データ解析と数値計算― 中村 啓彦 発表要旨:

黒潮流量の季節変動は,多くの黒潮流域で夏季に多く,秋~冬季に少ないという観測事実がある(フロリダ海流も同様である)。 しかし,スベルドラップ流量の季節変動は,この観測事実と180度位相が異なり,振幅が著しく大きいという矛盾をもつ。 この矛盾の解決策として,従来の研究では,スベルドラップ流量に与える海底地形の効果が注目されてきたが, 位相の食い違いを説明する決定的な要因とはなり得ていない。本研究では,従来とは異なるアプローチで,この問題の解決策を与える。 まず,流量を扱うことはせず,深さ毎に流速場の季節変動を調べる。流量は鉛直積分された情報なので, 表層と下層で季節変動の力学が異なる場合,その解釈が難しくなるためである。次に,スベルドラップ応答ばかりでなく, 西岸境界域の風応力場(北東アジアモンスーン)に対する黒潮の応答を調べる。そのために,まず,観測データ(AVISOの海面地衡流速)と 再解析データ(MOVE-WNP)を組み合わせて,全黒潮流路上で深さ毎に黒潮流速の季節変動を明らかにする。そして,その観測事実がスベルドラップ応答と 西岸境界域内の局所応答のどちらで説明できるかを,数値実験(現実的地形をもつ領域モデル)によって絞り込む。 このような戦略で研究を進めた結果,以下のことがわかった。 観測データ解析からは,黒潮上層(0-500 m)の流速季節変動は,ほぼ黒潮流路全体で夏季(7月)に最大になり, 地域的な違いはあるが秋季(10‐11月)または冬季(12‐2月)に最小になる。しかし,黒潮下層(> 500 m)の流速季節変動は,上層とは逆に, 冬季に最大となり,その特徴は,ルソン島から琉球列島東方斜面の広域で顕著である。数値実験からは,黒潮上層の流速季節変動は, 黒潮直上の風応力の季節変動によって作られており,このプロセスは黒潮の西側に陸岸がない東シナ海でも顕著に起こることが示された。 この数値実験結果は,黒潮やフロリダ海流の季節変動に対して,従来の研究で指摘されてきた形成要因 —海底地形の効果, 沿岸湧昇流の効果(フロリダ海流のみ)— を否定しており,本研究では,新しいメカニズムとして,季節風による黒潮上の非線形エクマン・パンピングの効果を提案するに至った。 一方,黒潮下層の流速季節変動は,伊豆-小笠原海嶺より西側の内部領域の風応力カールによるスベルドラップ応答で説明できることがわかった。 セミナーでは,黒潮流量の季節変動を中心に最新の研究成果を説明するが,これに関連して,黒潮流路の季節変動についても解説を加える予定である。

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連絡先

水田 元太(Genta Mizuta)
mail-to: mizuta@ees.hokudai.ac.jp