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第298回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 7月13日(木) 9:30 - 12:00
Date : Thu., 13 July 9:30−12:00 
場 所: 環境科学院 D201室
Place : Env. Sci. Bldg. D201

発表者:初塚 大輔 (地球環境科学研究院/博士研究員)
Speaker:Daisuke Hatsuzuka (Faculty of Environmental Earth Science/PD)
題目:バングラデシュにおける季節内振動に伴う低気圧についての気候学的研究
Title:Climatological study on low pressure systems associated with intraseasonal oscillations over Bangladesh
発表者:平野 大輔 (低温科学研究所/助教)
Speaker:Daisuke Hirano(Institute of Low Temperature Science/Assistant Professor)
題目:白瀬氷河における氷舌−海洋相互作用
Title:Ice tongue-ocean interaction at Shirase Glacier

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バングラデシュにおける季節内振動に伴う低気圧についての気候学的研究 (初塚大輔、Daisuke Hatsuzuka)発表要旨:

 バングラデシュは世界最多雨地域の一つである。夏季の降水活動には 周期的に活発と不活発な状態を繰り返す季節内変動が顕著であり、活発期 の降水量が夏季積算降水量とその年々変動にも影響するため、活発期の 降水機構の解明は重要な課題である。本研究は、高解像度日降水量格子点 データと大気再解析データを用いて、夏季バングラデシュの季節内変動の 活発期に豪雨をもたらす低気圧とその発生環境を調査した。  バングラデシュ周辺の夏季降水量には、準2週間周期の季節内振動(QBW) が卓越する。大気再解析データを用いて、1979年から2007年(29年間)の 夏季にバングラデシュ周辺で発生した低気圧を客観的に抽出・追跡し、 バングラデシュにおけるQBWに伴う降水活発期と低気圧の関係を調べた。 その結果、活発期の約6割でバングラデシュ周辺に渦状の低気圧が存在する ことを見出した。低気圧の平均的な水平スケールは約600kmで、特にバングラ デシュ平野部の降水量増大に大きく寄与していることも分かった。さらに、 アジアモンスーン域で卓越する2つの季節内振動モードであるQBWと25〜60日 周期の季節内振動(BSISO)と低気圧発生との関係を統計的に解析した。 低気圧の発生時には、2つのモードが共にベンガル湾北部で低気圧性シアーを 強化し、渦状の低気圧が発生しやすい環境場をもたらしていた。この結果は、 この地域における低気圧発生に対する2つの季節内振動モードの監視及び予測 の重要性を示唆している。

白瀬氷河における氷舌−海洋相互作用 (平野大輔、Daisuke Hirano)発表要旨:

 南極沿岸域における氷床−海氷−海洋相互作用は、全球規模の海水準・海洋 熱塩循環の変化や気候変動に重要な役割を果たしており、中でも海洋の役割は 注目を集めている。氷床(氷河)と海洋の相互作用は、棚氷や氷舌(氷床が海 洋に張り出した浮氷)の底面に暖水である周極深層水が流れ込んで起こる底面 融解が本質である。棚氷は氷河を堰き止める効果を持つため、底面融解により 棚氷が薄くなる(不安定化)と氷河流動の抑制効果が弱化し、氷床起源の陸氷 (淡水)の海洋への流出量が増加する。これは、最終的に全球の海水準上昇に 寄与するのみならず、南極沿岸海洋の低塩分化も引き起こす。  東南極に位置するリュツォ・ホルム(LH)湾奥には、白瀬氷河が存在する。 湾中央部には白瀬氷河へと続く海底峡谷が存在し、氷河近傍では1200m程度の 水深を有する。白瀬氷河の氷舌(棚氷)の面積は非常に小さいが、底面融解 率は年間7m程度と推定されており(Rignot et al., 2013)、これは周極的に 見ても比較的高い部類に属する。LH湾の広域海洋観測データは、白瀬氷河−海 洋相互作用の実態を把握する上で要である。しかし、2017年(JARE58)に実施 されるまでは、1990−92年(JARE31)の越冬観測で得られた海洋観測データ (Ushio and Takizawa, 1993; Ohshima and Kawamura, 1994)が存在するのみ であった。この観測結果を従来とは異なる視点で解釈したところ、氷河−海洋 相互作用に関連する以下の循環像が提示された。(1)沖合からLH湾に流入し た温暖な周極深層水は、主に海底峡谷の深い所に沿って南向きに白瀬氷河の氷 舌下へと流入し、(2)氷舌底面を融解させる。その後、(3)周極深層水は 融解水と混合してその特性を変えながら、氷舌下から北向きに流出する。 この白瀬氷河−海洋相互作用を詳細に解明するため、かつてない規模でのLH湾 海洋観測が2017年(JARE58)に実施された。本発表では、JARE58の海洋観測結 果およびJARE59(2018年)の観測計画も併せて紹介する。

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連絡先

平野 大輔(Daisuke Hirano)
mail-to: hirano@lowtem.hokudai.ac.jp