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第282回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 4月 28日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 D201

発表者: 大橋 良彦 (大気海洋物理学・気候力学コース/D2)
Yoshihiko Ohashi (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/D2)
題名:グリーンランド氷床西部沿岸における高濁度海水域の変動
Spatial and temporal variations in high turbidity surface water off the western Greenland coast

発表者:長谷部 文雄 (地球環境科学研究院/教授)
Fumio Hasebe (Faculty of Environmental Earth Science/Professor)
題名:大気微量成分精密観測で記述される中層大気大循環と物質輸送
General circulation and transport processes in the middle atmosphere estimated by precise observations of atmospheric minor constituents

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グリーンランド氷床西部沿岸における高濁度海水域の変動 (大橋良彦 Yoshihiko Ohashi) 発表要旨:

20世紀後半以降に顕著となった地球温暖化に伴って北極圏における気温は 全球平均の二倍以上の速さで上昇しており、グリーンランド氷床や周縁氷帽 の損失が加速している(IPCC AR5, 2013)。この質量損失の加速に伴って、 海洋に流入する融解水が増加している。融解水は氷河底面や陸上の堆積物を 海洋に輸送するため、氷床沿岸には高濁度の海水域が出現する。グリーンラ ンド沿岸の氷河が流入するフィヨルドで実施された海洋観測においても、表 層付近に高濁度層が観察されており、高濁度の融解水の流出が示唆されてい る(e.g. Chauche et al., 2014)。このような高濁度の融解水の流出に伴って 鉄や栄養塩が沿岸海域に供給されるため、海洋の生物生産に影響を与える可 能性が指摘されている(e.g. Bhatia et al., 2013; Frajka-Williams and Rhines, 2010)。しかしながら、グリーンランド沿岸において海洋観測が実施 されている海域は限られており、広域での高濁度海水域の挙動に関しては明 らかとなっていない。 以上の研究背景から、グリーンランド西部沿岸海域全域を研究対象地域と し、高濁度海水域の面積変動を主に人工衛星データによって解析した。解析 の結果、グリーンランド西部沿岸における高濁度海水域は一般的には、氷床 や氷帽から流れ出す氷河前縁海域に分布していることが明らかとなった。グ リーンランド氷床北西部Thule地域沿岸などの閉鎖海域における高濁度海水 域の年々変動は気温変動と有意な相関関係を示した。一方、閉鎖海域でない 他の沿岸海域では気温変動との有意な相関関係は成りたたなかった。以上の ことから、閉鎖海域における高濁度海水域の変動は気温を反映した氷河融解 水の流入量によって決定されることが示唆された。これらの地域性から、 閉鎖海域では高濁度水が維持されやすく氷河融解の影響が直接反映された可 能性がある。本セミナーでは解析結果に加えて、今後の研究計画も紹介する 予定である。

大気微量成分精密観測で記述される中層大気大循環と物質輸送 (長谷部 文雄 Fumio Hasebe) 発表要旨:

地上10 kmから80 km程度の高度域に広がる中層大気は、10年 規模全球気候変動の駆動源の一つである。一方、成層圏水蒸気が 熱帯対流圏界層における脱水過程に支配されるなど、中層大気は 下層大気中の力学過程の変動に敏感に応答する。こうした過程の 気候モデルによる再現が困難なことも相まって、中層大気科学 には解明されていない課題が多く残されている。例えば、大気 波動の砕波で駆動される中層大気大循環(Brewer-Dobson循環)に ついて、気候モデルは温暖化の進行に伴う加速を予測するが、 循環速度の指標として観測データから評価された成層圏大気の 「年齢」に、加速と整合的な変調は認められない。 こうした課題の解明には、現場観測による現象の精密な記述が 不可欠であるとの認識の下、成層圏大気の直接採取を継続して きたクライオサンプリング実験グループと熱帯域でのオゾン・ 水蒸気ゾンデ観測を実施してきたSOWERグループとは、双方の 観測の結合による新たな展開を指向し、対流圏大気が成層圏へ 流入する熱帯に位置し脱水進行現場でもあるインドネシア域に おける初めての共同観測を計画した。成層圏大気サンプリング を核とするこの観測は2015年2月に実現し、大気球4機による 8高度の大気試料採取とオゾン・水蒸気・エアロゾルゾンデ等 による観測が概ね成功裏に終了した。講演では、この観測に より得られた最新の知見と解決すべき課題を紹介する。

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連絡先

川島正行 (Masayuki Kawashima)
mail-to: kawasima@lowtem.hokudai.ac.jp