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第277回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 12月 10日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂

発表者: 伊藤 薫 (大気海洋物理学・気候力学コース/D3)
Kaoru Ito (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/D3)
題名:内部波と渦の相互作用
Interactions of internal waves and single vortex

発表者:柏瀬 陽彦(極地研・北大低温研/特任研究員)
Haruhiko Kashiwase (NIPR・ILTS/Post Doctral fellow)
題名:北極海の海氷激減における海氷ー海洋アルベドフィードバック効果
Ice-ocean albedo feedback effect on recent drastic reduction in Arctic sea ice cover

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内部波と渦の相互作用 (伊藤薫 Kaoru Ito)発表要旨:

海水の鉛直混合は熱塩循環の駆動源、物質の輸送、水塊の形成に係る基本的 な要素である。鉛直混合は従来内部波とその砕波を主な要因として議論されて きたが、最近になって渦が内部波による混合を促進している可能性が示唆され 始めている。アルゴフロート等の観測から見積もられた鉛直拡散係数が、渦の 活発な海域で大きいという間接的証拠が示され、WKB 近似に基づいたwave capture 理論により、渦の中で内部波が高波数化し混合を引き起こしうるこ とが示された。しかし、現実の海洋ではWKB的な方法が使えない状況がよくある。 例えば千島列島周辺の、小さくて流速の大きいサブメソスケール渦と遠方まで 伝搬する長波長の内部波などである。このようなパラメタレンジで渦と内部波 の衝突を扱った研究は過去に殆ど無いので、どのような現象が起こるか、また、 力学を特徴付ける指標を探すことを目的として研究した。 運動方程式で変数を渦と波に分けて無次元化したときの移流項の係数eによっ て渦が内部波に及ぼす影響をスケーリング出来る。ε<<1 のときは応答が線形 的で、内部波のエネルギーフラックスの疎密を伴う散乱が生じたのに対し、 ε~1 になるとように内部波が極端に変形し、高波数化して砕波・混合に至った。 このことから、εは渦・内部波相互作用の力学レジーム分類の判断基準として 使えると考えられる。また、鉛直高波数化は混合を引き起こすので、内部波の 砕波による混合を引き起こすか否かの指標にもなる。

北極海の海氷激減における海氷ー海洋アルベドフィードバック効果 (柏瀬陽彦 Haruhiko Kashiwase)発表要旨:

近年北極海では夏季海氷面積の減少、平均氷厚の減少、季節海氷域の増加など 様々な変化が現れており、これらの変動は特に2000年以降の太平洋セ クターに おいて顕著である。先行研究ではそのような変化が気温の上昇や大気循環場の変 化に伴う海氷流出量の増加など、様々な要因が働いた結果であ ることを示唆し ているが、その全体像は未だ明らかにはされていない。本研究では北極海の急激 な変動の要因の一つとして海氷−海洋アルベドフィード バック効果に着目す る。これは開水面と海氷表面とでアルベド(日射に対する反射率)が大きく異な る(それぞれ0.07および0.7程度)ことに起 因して生じるものであり、一旦海氷 密接度が低下すると開水面に入る日射熱が海氷を融解させ、さらに密接度が低下 する正のフィードバック効果であ る。このフィードバックは南極海やオホーツ ク海といった季節海氷域の海氷後退をコントロールする要素の一つであることが 明らかになっており (Niahsi and Cavalieri, 2006; Niahshi et al., 2011)、近年は季節海氷域化しつつある北極海においても重要な役割を持つこと が期待される。本研究では北極海太平洋セクターの海氷域(海氷密接度 30%以上 の領域として定義)を対象として、衛星観測による海氷データを使用した熱収支 解析から海氷後退が流出ではなく融解によって生じているこ と、その主要な熱 源が開水面から吸収された日射であることを示す。特に夏季の北極海ではメルト ポンドの形成が熱収支にも影響することが指摘されて おり注意が必要である が、本研究では海氷アルベドの時間変化を仮定することでポンドフラクションを 推定し、その影響を定量的に評価した。次に、 フィードバックを生じさせるト リガーを明らかにするため、海氷漂流速度と融解量との比較を行った。その結 果、初夏の海氷発散が1-2ヶ月後の融解 量と有意な相関を持ち、さらに両者の関 係性が2000年以降に顕著であることが示された。以上の結果は初夏に海氷が発散 して密接度が低下すること をトリガーとした海氷-海洋アルベドフィードバック がその後の融解を増幅するメカニズムが近年強まり、それが2000年以降の海氷激 減にも寄与し ていることを示唆する。さらに、このメカニズムを表現する簡略 化モデルにおいても2000年以降の海氷後退が良く再現され、多年氷分布と海氷発 散 が重要な役割を持つことが確認された。

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豊田 威信 (Takenobu Toyota)
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