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第276回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 10月 22日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 2階 D201

発表者: 大畑 (大気海洋物理学・気候力学コース/D2)
Speaker:Yu Ohata (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/D2)
題名:網走湖における湖氷形成過程と氷厚推移
Title:Lake ice formation processes and thickness evolution at Lake Abashiri, Hokkaido, Japan

発表者:阿部 泰人(非常勤研究員)
Hiroto Abe (PD)
題名:題目:西部北太平洋における海面塩分変動:Aquariusを用いて
Title:Sea surface salinity variability in the western North Pacific observed by Aquarius

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網走湖における湖氷形成過程と氷厚推移 (大畑有 Yu Ohata)発表要旨:

北半球ではここ150年間(1846年-1995年)で、湖氷と川氷は100年につき5.8日 遅いfreeze-up、6.5日早いbreak-upとなり、湖の結氷期間が短縮しているこ とが報告されている。湖の凍結状態は地域の冬から春にかけての気候や気象に影 響を与え、更に漁業等の社会活動にも影響を及ぼすため、湖氷の成長過程と性質 を理解することは重要である。これまで季節湖氷の研究は北米や欧州の高緯度地 域を中心に行われてきたが、グローバルな湖氷の凍結状態を把握するには降雪の 多い中緯度地域の湖氷の形成過程を明らかにすることが必要である。 このため中緯度の北緯約44°に位置し、淡水層に季節湖氷を形成するとともに、 調査環境としても利便性の高い網走湖において、フィールド観測(2012/11〜 2013/3,2014/12〜2015/3)によって実態を明らかにすることを行った。その 結果、氷は上部は雪が冠水して再凍結してできるsnow ice (SI)と下部は底面 凍結によるcongelation ice(CI)の二層構造からなっていた。氷厚に対する SI層の比率は25〜73%であり、高緯度地域の湖氷(10-40%,Finland)より大き かった。  この湖氷の発達過程を明らかにするため一次元熱力学モデルにて再現すること を試みた。モデルでは底部のCI成長速度は従来の熱収支法から求め、上部のSI 成長速度はネガティブフリーボードとなる過剰な雪が削減率βでSIに変化すると 仮定して計算した。簡易なモデルであるが、β=2と設定することにより、気象条 件が大きく異なる2回の冬季におけるSI厚、CI厚および解氷日の観測値を概略 再現した。  続いてモデルをもとに雪の役割を調べた。その結果、雪は氷成長を抑制する働 きとSIの生成により氷成長を助長する働きの相反する効果があるが、季節変化の 時間スケールで見た場合、雪は気温変化によって起こされる全氷厚の変動を緩和 する役割が考えられる。  更に過去15年の気象データをもとにこのモデルを用いて各冬の全氷厚・SI厚・ CI厚の推移を求めた。計算に当たっては衛星TerraとAquaのMODIS画像から結 氷日を推定した。モデル結果はMODISによる解氷日を再現し、氷厚については 湖岸において記録が残る過去10年の氷厚データと有意な相関を示し、長期にわ たるモデルの有効性を確認した。成長期の気象条件として、平均気温、平均積 雪を氷厚と対比した結果、中緯度における氷厚は、気温よりも積雪に大きく依 存して変動することが見いだされた。今後積雪により形成されるSnow iceの 成長過程を詳しく調べていく。

西部北太平洋における海面塩分変動:Aquariusを用いて (阿部泰人 Hiroto Abe)発表要旨:

米国宇宙航空局が開発した塩分センサーAquariusを搭載した地球観測衛星 は,2011年に打ち上げられ,その後4年間にわたり全球の海面塩分を観測してき た. 衛星の観測周期は7日間であるため,従来の現場観測では困難であった,一 週間平均の全球塩分マップが利用できる.本研究ではまず,週平均Aquarius海面 塩分データを現場観測データと比較することで,その有効性の検証を西部北太平 洋域にて行う.その上で,時間・空間分解能が高いデータだからこそ見えてくる 塩分変動の例をいくつか紹介する.週平均Aquarius海面塩分は,赤道係留ブイ1m 深塩分に見られる季節変動を良く捉えていた.また不規則なタイミングで出現す る 2〜3週間,2か月周期の塩分変動も捉えていた.2〜3週間周期のAquarius海面 塩分変動は,下に凸のピークをとる場合が多く,それは降水よる低塩化で説明で きた. その低塩化は500km四方に渡って大規模に起きている場合もあった.2か 月周期の塩分変動は,塩分前線が位置する海域で見られたが,それは中規模渦に よる前線を横 切る塩分移流によって説明できた.年間を通して降水量が少な く,塩分が高い亜熱帯海域では,降水により低塩化した海水が長期間,6か月間 にわたって維持さ れている例も見つかった.この低塩分水は,高気圧性の中規 模渦に沿って分布し,渦と共に西方へと伝播していた.この中規模渦と低塩化を もたらす降水の分布は 全く異なっていた.そのため,この高気圧性渦には,周 囲の表層水を渦内部に取り込む流れが存在するものと推察される.

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豊田 威信 (Takenobu Toyota)
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