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第270回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 6月 25日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 2階 D201

発表者:稲飯 洋一 (大気海洋物理学・気候力学コース/博士研究員)
Speaker: Yoichi Inai (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/PD)
題名:熱帯東部太平洋における二酸化炭素濃度分布と大気輸送過程
Carbon dioxide distribution and transport processes over the tropical eastern Pacific

発表者: 佐藤 友徳 (大気海洋物理学・気候力学コース/准教授)
Tomonori Sato (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/Associate Professor)
題名: 大気の下部境界条件としての陸と海洋
Roles of land and ocean as a lower boundary condition of atmosphere

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熱帯東部太平洋における二酸化炭素濃度分布と大気輸送過程 (稲飯 洋一 Yoichi Inai ) 発表要旨:

対流圏の大気は主に熱帯域で対流活動に伴い鉛直輸送され熱帯対流圏界層(TTL )を通過して成層圏へと流入している。成層圏流入後は赤道域でゆっくりと上昇 しつつ高緯度の成層圏全体へと輸送されていく(ブルワードブソン循環)。この ような大気の大規模循環に伴って温室効果気体やオゾン破壊物質は成層圏全体へ と輸送され地球規模の環境変動を引き起こしているが、ブルワードブソン循環強 度の長期変化傾向が理論と観測で整合しないなど、その理解は不十分である。 このような背景の下、2012年2月に熱帯東部太平洋において海洋研究開発機構の学 術研究船「白鳳丸」をプラットフォームとした気球による高層大気観測が実施さ れた。この観測には通常のラジオゾンデやオゾン・水蒸気ゾンデに加え、新開発 された小型クライオ成層圏大気サンプラーや二酸化炭素ゾンデが投入された。発 表の前半ではこの観測キャンペーンの概要紹介を兼ねて下部対流圏における二酸 化炭素濃度分布について考察する。二酸化炭素は化学的に安定な物質で主要な排 出/吸収源の存在する地表付近を離れると輸送・混合過程によって分布が決定され ると考えられる。そこで白鳳丸で観測された空気塊について流跡線解析を行った ところ、観測された二酸化炭素分布は力学場から推定される大気輸送と概ね整合 的であることが示された。 発表の後半では、小型クライオ成層圏大気サンプラーで観測された下部成層圏に おける二酸化炭素濃度分布について考察する。下部成層圏においても二酸化炭素 濃度は力学過程に依存していると考えられる。成層圏のブルワードブソン循環は 非常にゆっくりとしているため流跡線解析は有効ではないが、熱帯下部成層圏に は「水蒸気のテープレコーダー」が存在する事がよく知られている。これはTTL における大気脱水強度の季節変動が成層圏を上昇していく大気の水蒸気量として 記録されたものであり、これを利用して水蒸気の鉛直分布の時系列からブルワー ドブソン循環に伴う鉛直輸送を評価した。さらに小型クライオサンプラーで観測 された成層圏大気の成層圏流入時期を推測し、その二酸化炭素濃度をその大気の 成層圏流入時の対流圏の濃度と比較した。その結果、成層圏の大気は流入時の対 流圏の値に比べて二酸化炭素濃度が若干減少している事が示され、その減少量は 成層圏流入後の経過時間が長くなるほど大きくなる事が示された。これらの結果 をTTLや下部成層圏における大気混合過程に関連づけて考察する。

大気の下部境界条件としての陸と海洋 (佐藤 友徳 Tomonori Sato )発表要旨:

対流圏における大気大循環は主に南北や水平方法の熱コントラストによ って駆動されている。それと同時に、大気の最下層は陸面や海面と接し ており、両者の間では様々な形でエネルギーの交換が行われている。そ の結果、局地的な気候は大気側面から大循環の強制を受けることに加え て、大気下部から陸や海洋の強制を受けることで特徴が決まる。両者の バランスは地域や季節等によって異なるが、陸や海洋と大気の間の熱や 水の交換過程は、日々の気象変化から地球温暖化に伴う気候変動まで多 様な時空間スケールの現象に関与しうる重要な過程である。本発表では 、発表者が最近行った研究の中から、陸面によって強制された大気現象 として、札幌のヒートアイランドや北東ユーラシアの熱波について調査 した研究の概要を紹介する。また、現在関心を持っている中高緯度の大 気陸面相互作用の話題についても簡単に述べる予定である。

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豊田 威信 (Takenobu Toyota)
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