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第268回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 4月 30日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 2階 D201

発表者:中野渡 拓也(国立極地研究所 特任研究員)
Takuya Nakanowatari (National Institute of Polar Research/PD)
題名: ベーリング海の海氷変動の要因と北アメリカの気候に対する影響
Bering Sea ice extent variability in early winter and its role on North American winter climate

発表者: 三寺 史夫 (低温科学研究所/教授)
Humio Mitsudera (Institute of Low Temperature Science/Prof.)
題名: 北太平洋の子午面循環:その塩輸送過程および亜熱帯循環と亜寒帯循環をつなぐ
Overturning circulation in the North Pacific Ocean:Salinity advection processes

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Bering Sea ice extent variability in early winter and its role on North American winter climate (中野渡 拓也 Takuya Nakanowatari) 発表要旨:

近年、北極海の海氷減少など地球温暖化が進行中であるにもかかわらず、 我が国を含む極東ユーラシアでは寒冬年が多くなっている。この寒冬傾向 の原因として、風上側に位置する北極海の縁辺海であるバレンツ海の海氷 減少に伴う移動性低気圧の経路の北偏や惑星波動の励起などが指摘されて おり、海氷縁域の大気海洋相互作用の重要性が注目されている。一方で、 北アメリカにおいても2013、2014年の初冬は寒冷であったことから、その 風上に位置するベーリング海の海氷変動が影響している可能性がある。そ こで、ベーリング海の初冬の海氷変動に着目し、その変動要因を正準相関 解析(CCA)によって客観的に調べると共に、その下流域の気候に対する 影響について診断的に調べた。米国海洋大気庁の大気海洋結合再解析デー タ(NCEP-CFSR)の1980-2009年データに基づいて、12月のベーリング海 の海氷密接度と大気や海洋データ間でのCCAを行った結果、2か月前の25m 表層水温と1か月前の東西風が海氷変動の予測変数として優れていることが 分かった。東西風は海氷変動の23%(ベーリング海北東部)を説明し、西風 偏差時に海氷域が拡大することがわかった。この東西風偏差は北太平洋にお ける準定常ジェットからの波列パターンに関係していた。一方、表層水温は 海氷変動の17%(ベーリング海南東部)を説明し、2−3か月前のアラスカ湾 からの水温偏差が海流によって移流されたものであることがわかった。この 晩秋のアラスカ湾の水温偏差は、夏季のPJ patternに類似した大気偏差場に 関係していた。次に、ベーリング海の海氷変動とその下流域の気候の関係を 調べた結果、ベーリング海の海氷が少ない時に、12−1月の北アメリカの気 温が低くなる傾向があることがわかった。このことから、初冬の北アメリカ に見られる近年の寒冷化の要因として、ベーリング海の海氷域の減少に伴う 大気応答が示唆される。

Overturning circulation in the North Pacific Ocean:Salinity advection processes (三寺 史夫 Humio Mitsudera) 発表要旨:

北太平洋の表層と中層をつなぐ子午面循環はオホーツク海における沈み込みが起 点となっている。このため子午面循環の変動の解明にあたり重要なのは、沈み込 みを起こすオホーツク海の塩分変動の把握である。しかしながら、オホーツク海 はほとんどがロシア海域であり、データは希少であった。本セミナーの前半では、 ロシア極東海洋気象研究所のロシア海洋データを解析し、オホーツク海塩分とそ の変動要因を抽出した結果について述べる。オホーツク海表層では塩分が低化傾 向や10年規模変動を示すこと、また変動を引き起こす重要な要因は、アラスカン ストリームや西部亜寒帯循環から発しオホーツク海北部に到達する、表層塩分ア ノマリの長距離伝搬であることをまず示す。  ではその源となる亜寒帯循環の塩分はどのように決定されるのであろうか?北 太平洋亜寒帯域では蒸発に対して降水など淡水供給が過多であり、表層塩分は常 に希釈される傾向にある。この希釈を補うための高塩水供給が必要だが、それを 担っているのが、亜熱帯循環から亜寒帯循環への塩分輸送である。  本セミナーの後半は、このような塩分輸送を担う準定常ジェットの形成機構に ついて述べる。北太平洋の亜熱帯循環と亜寒帯循環の境界は移行領域と呼ばれ、 黒潮水と親潮水が入り組みながら複雑なフロント構造が形成されている。準定常 ジェットは移行領域へ高温高塩の黒潮水の供給を担っている。また準定常ジェッ トと親潮からの反流が接する亜寒帯フロントは北太平洋における最も強いSSTフロ ントを為しており、その変動はアリューシャン低気圧に大きな影響を与えると指 摘されている。このように近年注目されている準定常ジェットであるが、その形 成過程や変動機構は未解明である。ここではロスビー波の特性曲線を用いて、準 定常ジェットの形成過程を考察する。

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