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第 264回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 12月 25日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所  3階 講堂

発表者:伊藤薫 (大気海洋物理学・気候力学コース/D2)
Kaoru Ito (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/DC2)
題名: 渦と内部波の相互作用
Vortex-wave interaction

発表者: 伊藤優人(大気海洋物理学・気候力学コース/D1)
Masato Ito (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/DC1)
題名: ADCPより観測された、オホーツク海における強風イベントによる
海底堆積物の上方輸送とフラジルアイス生成 −海氷への鉄供給の有力なメカニズム−
Sediment upward dispersion and frazil ice formation by strong windy events in the Sea of Okhotsk,
observed with ADCP -A possible mechanism of iron supply to sea ice -

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渦と内部波の相互作用 (伊藤薫 Kaoru Ito)発表要旨:

千島列島周辺のような島嶼付近では複雑で急峻な地形と、強い順圧潮流の 相互作用によって、様々な波長の内部波が励起され、その一部は外洋に向け て伝播する。また、同時にsubmeso~meso-scaleの渦も励起される。流速 は最大で3m/sに及ぶ。これらの内部波と渦は衝突することが期待される。 最近の研究で内部波に対する渦の作用が海洋の鉛直拡散に関して重要である ことがわかっている。例えば、特定の海域の観測を元にした研究としては、 中規模渦による砕波(Ferrari and Wunsch, 2009; Polzin, 2009), 大陸棚に向けて内部波が伝播する際、中規模場の影響を受けること(Nash et al., 2012; Kerry et al., 2013)などがある。数値計算では中規 模渦による内部潮汐のエネルギーフラックスのコールドスポット、ホットス ポット形成(Dunphyand Lamb, 2014)、力学の研究としてはwave-capture (Buehler and McIntyre, 2005)などが挙げられる。これらは何れも渦 を不変とした準線形の文脈であり、その外のパラメータは考えられていない。 そこで、渦と内部波の一般的な力学の理解を目指して、パラメータを様々に 変えた数値実験を行った。その結果、等方的な散乱、異方的な散乱、wave- captureとは異なるパラメタレンジでの類似な現象、波のトラップによる渦 の崩壊、火面の形成と移流による入射波の砕波、渦度の移流など多彩な現象 が見られた。また、これらを解析するための足がかりになりそうな単純な系 での散乱波の解を得た。EOASセミナーではこれらをトピック的に紹介する。

ADCPより観測された、オホーツク海における強風イベントによる海底堆積 物の上方輸送とフラジルアイス生成−海氷への鉄供給の有力なメカニズム− (伊藤優人 Masato Ito) 発表要旨:

南部オホーツク海では毎春植物プランクトンの大増殖が生じる。近年の現場 観測に基づいた研究から、この現象には融解する海氷から放出された鉄が強 く影響することが示され、鉄の起源が海底堆積物であることが強く示唆され た。しかし、海氷への鉄の供給過程は未だ解明されていない。一方で、実験 室の実験では、海表面付近で生成・凝集したフラジルアイスが上方に輸送さ れた堆積物をとりこむ過程が観察されており、海氷への鉄供給の有力な候補 とされている。本研究はこの過程を、現場観測の立場から着目し、鉄の供給 域と考えられているサハリン東岸沖において取得された係留データの解析を 行った。ADCP(超音波流速計)によって得られた、流速および音波の反射強 度の鉛直プロファイルと、気象再解析データとの比較により、強風イベント 時に、1) 強い南向きの流れによって海底から上方輸送されている堆積物、 2) 表層付近で生成され水中を漂流しているフラジルアイス、と推定される 強いシグナルが同時に観測され、かつ両シグナルは同一の水深まで達してい た。これらの結果は、強風・強流状況下で、上方へと輸送された海底堆積物 がフラジルアイスにより捕捉される過程が、オホーツク海における海氷への 鉄への供給過程のひとつであることを、初めて直接観測で示唆したものであ る。

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連絡先

水田 元太 (Genta Mizuta)
mail-to: mizuta@ees.hokudai.ac.jp