****************************************************************************************************************

第 225回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 12月 22日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂

発表者: 松村 伸治(地球環境科学研究院/PD) \\Speaker: Shinji Matsumura, Faculty of Environmental Earth Science/PD
題 目: 北ユーラシアにおける雪氷圏気候システム \\Cryosphere and climate in northern Eurasia

発表者: 江淵 直人(北海道大学低温科学研究所/教授) \\Speaker: Naoto Ebuchi, ILTS/Professor
題 目: 人工衛星による海面観測の現状と展望 \\Satellite remote sensing of the ocean surface: Present status and way forward

****************************************************************************************************************

北ユーラシアにおける雪氷圏気候システム \\Cryosphere and climate in northern Eurasia \\(松村 伸治 \\Shinji Matsumura)発表要旨 :

北極海に面する北ユーラシアは大気,陸面,海洋,海氷の多様なプロセスにより 複雑な気候システムを形成しており,環オホーツク域を通して日本の気候とも大 きく関わりがある.これまで観測やデータ不足等のために,それぞれの分野にお けるプロセス的な研究に主眼が置かれていたが,本セミナーでは,雪氷圏気候シ ステムの観点から,特に北日本の気候への影響を大気,陸面,海氷の役割につい て紹介する.前半は春季の積雪偏差が引き起こす北ユーラシアの大気陸面相互作 用について,後半はオホーツク海の海氷の将来予測分布による北海道の冬季降水 量への影響を予定している. 積雪は気候に対して大きく2つのプロセスによって影響を及ぼしている. 1つは,日射を反射するアルベドフィードバック,もう一つは融雪水効果である. 融雪水効果とは,春の融雪水が土壌に浸透する効果が大きい半乾燥域に顕著に現 れる現象である.すなわち,春の融雪水が地中に浸透し,土壌水分として蓄えら れることで,夏季に陸面から大気に蒸発した水蒸気が雲を形成し降水をもたらす. そして,蒸発と降水のカップリングであるいわゆるリサイクリング効果が夏期の 土壌水分偏差を持続させている.これらが地表面熱フラックスや雲などにより, 夏期の気温傾向を持続する気候メモリの役割を果たしている.この一連のプロセ スが東シベリアで機能していることを観測データとモデルにより明らかにし,さ らに,東シベリアの地表面加熱が対流圏上層の高気圧を強め,晩夏である8月の オホーツク海高気圧の形成要因である可能性について述べる. 雪氷圏では雪氷のアルベドフィードバックが将来の気候予測において本質的な役 割を果たすといわれており,その雪氷圏のアルベドは積雪や海氷分布の変動のた めに著しく変化する.一方で,将来の積雪や海氷分布予測はGCM間で著しく異なっ ている.このため,雪氷圏のアルベドは気候変化予測における不確実性の一つで ある.今回,冬季の北海道周辺においてダウンスケーリングによる温暖化実験を 行ったところ,水蒸気増加に伴う降水量の増加とは別に,日本海上のいわゆる北 海道西岸収束雲帯がもたらす降水量が将来的に減少することが分かった.これは, オホーツク海の将来的な海氷減少による結果であることを感度実験からも明らか になった.以上の2種類の雪氷変動がもたらす雪氷圏気候システムについて紹介 する.

人工衛星による海面観測の現状と展望 \\Satellite remote sensing of the ocean surface: Present status and way forward \\(江淵 直人 \\Naoto Ebuchi)発表要旨 :

人工衛星による海面観測の現状と展望を,特に海面水温,海上風ベクトル,海面 高度,海氷密接度に焦点を当ててレビューする.1990年代後半以上,数多くの地 球観測衛星が打ち上げられ,海面上下の種々の物理量が,高頻度・高精度で容易 に手に入るようになった.しかしながら,最近の世界的な経済状況の悪化から, この先,このような状態を維持できるかどうか,非常に不透明な状況である.ま た,可視・赤外放射計,マイクロ波放射計,マイクロ波散乱計,レーダー高度計 などは,技術的には成熟段階に達し,これ以上の分解能や精度の向上は容易では ではなくなってきており,一種の手詰まり感が拡がっているのが実情といえる. この状況を打破する新しいアイディアが我々ユーザにも求められている.最近の チャレンジの例として,海面塩分観測と干渉型レーダー高度計の例を紹介する.

-----
連絡先

豊田 威信
mail-to: toyota@ees.hokudai.ac.jp