****************************************************************************************************************

第 218回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 6月 23日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 D棟2階 D201号室

発表者: 陶 泰典 (地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース/D3)
\\SUE Yasunori (Course in atmosphere-ocean climate dynamics/DC3)
題 目: 準地衡流モデルにおける西岸境界流の離岸緯度
\\Latitude of westarn boundary current separation in QG model

発表者: 大島 慶一郎 (地球環境科学研究院/教授)
\\Kay I. Ohshima (Faculty of Enviromental Earth Science/Professor)
題 目: 海氷生産量のグローバルマッピングと中深層水形成とその変動
\\Global mapping of sea ice production and deep/intermediate water formaion

****************************************************************************************************************

準地衡流モデルにおける西岸境界流の離岸緯度 \\Latitude of westarn boundary current separation in QG model \\ (陶 泰典\\SUE Yasunori) 発表要旨 :

西岸境界流は大洋の西側を南北に流れる強い流れである。西岸境界域構造の 簡単な理解はStommel(1948)、Munk(1950)によってなされ、ベータ項と底 ・水平摩擦項、とのバランスによって説明される。 西岸境界流の離岸緯度(境界に沿う流れが向きを変え、海洋内部領域に向か う緯度)を考える場合、これらの理論に従えばそれは風応力のCurlの符号が 変わる緯度、すなわち循環境界になるはずであるが、現実の海洋ではそうな っておらず循環境界の遥か手前で離岸をし東向きのジェットを形成する。こ のことは’Premature Separation(早期離岸)’と呼ばれ、昔は数値計算 で再現することのできない海洋物理学上の謎であったが、計算機の演算能力 の進歩に伴い、再現そのものは難しいことではなくなった。離岸緯度につい ては駆動する風が同じであれば地形によらず一定であることが示されている (Nakano et.al,2008)。 とはいえ、なぜその緯度でなくてはならないかについての考察はいまだ十分 になされていない。そもそも離岸緯度は何をパラメータとし、どのように変 化するのだろうか。 本発表では、2層の準地衡流モデルを用い、矩形領域の海盆をsin型のエク マンパンピングで駆動した数値実験結果について述べる。 変形半径で規格化した「粘性境界層幅」と「慣性境界層幅」をパラメータと し、また、境界条件依存性(Partial-Slip)についても調べた。No-slip 境界条件の元では、粘性が大きいほど、非線型性が弱い程、早期離岸となる が、こうなる場合パラメータ間に大きな差はない。境界条件がSlip境界条件 に近付くと、ジェットの緯度は循環境界となり、これは Haidvogel,et.al(1992) の結果と一致する。No-slip境界条件に近付くと早期離岸が見られるが、そ の場合、No-slip境界のものと比べて時間変動は大きいものの、平均的には 概ね同じ緯度に見える。だだし、ここについてはもう少し考察が必要かもし れない。 さて、この手の数値実験では、南北・東西に渦位勾配の急な領域ができる。 そのような場の移流計算において、準地衡流の数値実験でよく用いられる荒 川ヤコビアン法は必ずしも良い結果を得ない。そこで、上の実験では Imai et.al(2008)によって提案されたIDO-CF(Interpolated differential operator scheme-Conservative form)法を用いた。本発表ではこれにつ いても触れる。

海氷生産量のグローバルマッピングと中深層水形成とその変動 \\Global mapping of sea ice production and deep/intermediate water formaion \\(大島 慶一郎\\Kay I. Ohshima) 発表要旨 :

海洋の大規模な中深層循環は極域・海氷域から重い水が沈み込み、それが 徐々に湧き上がってくるという密度(熱塩)循環である。海氷生成の際にはき 出される高塩分水が重い水の生成源になっている。最近、南極底層水や北太平 洋の中層水の変質が観測され、中深層循環が弱化している可能性も指摘されて いる。海氷生産量の変動がこれらに関わっている可能性があるが、海氷生産量 を捉える現場観測が極めて困難であることから、その変動はもとより平均的な 量・分布さえも今までよくわかっていなかった。  当研究グループでは、海洋中深層循環を決める重要な因子である海氷生産量 を、現場観測に基づいて衛星データ等から見積もるアルゴリズムを開発し、そ のグローバルマッピングを行うこと、さらに海氷生産量と中深層水形成の関係 をその変動を含めて理解すること、をめざして研究を行っている。今回は以下 の3点を中心にお話しする予定である。 (1) 海氷生産量の全球マッピング  衛星マイクロ波放射計データと熱収支計算等から、南極海、北極海、オホー ツク海において薄氷厚アルゴリズムを開発し、海氷生産量のマッピングを行っ た。さらに、今までよくわかっていなかった、海氷域での熱塩フラックスの見 積もりを行った(Tamura et al., 2011など)。これらは逐次オンラインデー タセット化され、国外も含む研究者によって、モデルの比較・検証データ、境 界条件データなどに利用されている。ただし、現段階のデータセットは、現場 での検証が不十分であるという問題がある。 (2) 沿岸ポリニヤでの高精度海氷・海洋観測  南極海では第51・52次日本南極地域観測隊に参加して、北極海ではアラスカ 大学との共同観測により、高海氷生産域である沿岸ポリニヤにおいて長期係留 観測を行なった。取得したデータは、沿岸ポリニヤでは今まで得ることがなか った高精度の海氷厚データと海氷・海洋同時取得データであり、上記の薄氷厚 及び海氷生産量アルゴリズムの高精度化(バージョンアップ)のための比較・検 証データとして使用される。 (3) 未知の南極底層水生成域の発見  海氷生産量マッピングから南極第2の高海氷生産域であることが示されたケー プダンレー沖において、係留系観測及び海洋観測を行い、この海域が未知の南 極底層水生成域であることをつきとめた。また、底層水が周期的に流出する過 程を捉えることに成功した。さらに、南極底層水生成を最新の非静水圧海洋モ デル(Matsumura & Hasumi, 2008)により再現し、観測では把握しきれない、 底層水の流動経路・流量の把握、底層水の周期的流出機構の解明などもめざし ている。

-----
連絡先

豊田 威信 (Takenobu Toyota)
mail-to: toyota@ees.hokudai.ac.jp