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第 217回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 6月 16日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 D棟2階 D201号室

発表者: 干場 康博 (地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース/D3)
\\Yasuhiro Hoshiba (Course in atmosphere-ocean climate dynamics/DC3)
題 目: 河川が河口沿岸域の物質循環に与える影響について
\\A basic study of suspended sediment material from river to costal ocean using a numerical model

発表者: 長谷部 文雄 (地球環境科学研究院/教授)
\\Fumio Hasebe (Faculty of Enviromental Earth Science/Professor)
題 目: 微量成分を通して観る大気大循環
\\Atmospheric General Circulation Viewed from Minor Constituents

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河川が河口沿岸域の物質循環に与える影響について \\A basic study of suspended sediment material from river to costal ocean using a numerical model \\(干場 康博 \\Yasuhiro Hoshiba) 発表要旨 :

陸域から海洋沿岸域へは河川を通して、懸濁物(泥や砂など)や栄養塩が供給されており、 沿岸海域の物質循環を考える上で重要である(Wilkinson et al.,1997)。  河川から流入した懸濁物質が海水から除去され、海底に堆積する過程を以下の2点から考察し、 結果をまとめた。  ①雪解けや大雨など、河川水の流出形態  ②懸濁物の海水からの除去時間 の違いがどのように堆積物分布に影響を与えるか。  理想化した地形や設定のもとで、海洋大循環モデルに懸濁物質の輸送を組み込み、 計算を行った。  河川水の流出形態が平常時や雪解け時の定常的な場合は、河口近くや上流方向で、 大雨時のように短期間に大量の水が出る場合は沖合や下流で除去される傾向がある。 懸濁物の海水からの除去時間が短いほうがこの傾向は顕著になることがわかった。  また、今回は上記のモデルにシンプルな生態系モデルを導入した結果も少し発表する。

微量成分を通して観る大気大循環 \\Atmospheric General Circulation Viewed from Minor Constituents \\(長谷部 文雄\\Fumio Hasebe) 発表要旨 :

大気微量成分は、混合比で 1 % 程度を占めるに過ぎない が、温室効果や短波長紫外線の遮蔽効果により、地球環境 の形成に大きな役割を果たしてきた。それらは、放射・ 輸送・化学過程に依存した複雑な時空間変動を示すが、 化学的寿命の長い領域では、トレースガスとして大気大循環 の可視化に利用することができる。  成層圏の大循環は、1940年代から水蒸気やオゾンの変動に 基づいて推定され、Brewer-Dobson循環と呼ばれている。 その素朴な循環像は、成層圏の温度構造から予想される全球 1 細胞の直接循環とも、気象場の解析により描き出された 平均子午面循環の構造とも、見かけ上、相容れないもので ある。この事実は、組織的な波動による輸送の重要性を示唆 すると同時に、気象データを用いた物質輸送定量化の困難さ を暗示するものであった。  Kida (1977, 1983)は、大気大循環モデルでシミュレート された流れの場に置いた粒子を追跡することにより、 Lagrange的に記述される循環場がBrewer-Dobson循環を 再現する事を示し、固定点で物質収支を評価するEuler的な 枠組みと、大気塊の追跡により物質輸送を記述する Langange的な枠組みとが、相互に矛盾するものではない事 を具体的に示した。大気塊を追跡するLagrange的手法は、 流跡線計算の普及と相まって、現在、盛んに利用されて いる。一方、Andrews and McIntyre (1976)は、帯状平均場 の変動を理解するには、波動と平均流の寄与を個別に評価 するのではなく、両者の残差に注目すべきであるという 新しい枠組みを提示した。Transformed Eulerian Meanと 名付けられたこの枠組みによれば、物質輸送は残差循環に より記述される。残差循環は、Euler的な記述法であり ながら、Brewer-Dobson循環を巧みに表現する手法として 広く利用されるようになった。  大気微量成分の時空間変動の理解は、このように、循環場 を記述する枠組みの進化とともに深まってきた。人為起源の オゾン層破壊や広域大気汚染、深刻化する地球温暖化の 科学的理解のためには、大気微量成分の変動に対する生成・ 消滅過程と輸送過程との寄与を、それぞれ定量的に評価する 必要がある。こうした目的のために、化学輸送モデルの 高性能化やデータ同化手法の改良が進み、現実大気の再現性 は近年著しく向上している。しかしながら、このような 再現性の向上は、現象の理解を無条件に保証するものでは ない。今回の講演では、春季極域成層圏オゾン破壊の中緯度 への影響、熱帯対流圏界面を通過して成層圏へ流入する大気 に作用する脱水、東アジア域の広域大気質変動を例に、 簡略化した枠組みの中で大気大循環の特性を抽出しようと する試みについて紹介する。

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連絡先

豊田 威信 (Takenobu Toyota)
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