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第 204 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 4月 15日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 D棟2階 D201号室

発表者: 吉田 康平 (地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース/D3)
題 目: 2009年1月成層圏突然昇温期における熱帯対流圏界層の気温変動メカニズム

発表者: 藤原 忠誠 (地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース/D3)
題 目: Dust devil-like vortices発生時の気流構造

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2009年1月成層圏突然昇温期における熱帯対流圏界層の気温変動メカニズム(吉田 康平) 発表要旨 :

 2009年1月に顕著な成層圏突然昇温(SSW) が発生した. SSWは極域における現象で
あるが, 同時に熱帯成層圏においても温度減少が生じることが知られている. 小寺ら
(2009年気象学会秋季大会)により同時期のSSW発生時に対流構造に変化が生じた
ことが示され, 熱帯対流圏界層に影響を及ぼしていることが予想される.
本研究では再解析データECMWF ERA-Interimを用いて同時期における熱帯対流圏界層
での気温変動とそのメカニズムに関する考察を行った. その結果. 1月16日周辺から
SSWに伴う熱帯, 10 hPa面気温の急激な減少が見られ, 気温減少傾向が下方へ伝
播し,70 hPaより上層までは気温減少が鉛直移流による冷却で説明可能だった.
しかし125 hPaでは70 hPaよりも気温減少が先行して起き, 鉛直移流の効果のみでは
説明できない気温減少が形成されていた. この気温変動の成因を明らかにすべく
Transformed Euler Mean (TEM) 熱力学エネルギー方程式の収支解析を行った.
気温減少の序盤である1月18日周辺は鉛直移流による冷却効果が卓越し,
その後は非断熱加熱とVertical eddy heat flux (VEHF) 収束の加熱効果の緩やかな
弱化に伴い気温減少が維持される構造が明らかになり, 非断熱加熱とVEHF収束の
変動については, 同時期の外向き長波放射から対流構造の変化がこれらの項に寄与
していることを示唆する結果となった. また70 hPaより上層と異なる鉛直流の
変動をする100, 125 hPaの構造に関して, その原因を明らかにすべく行ったEP
flux, Plumb (1985, JAS)で提唱されたWave activity flux, Hough関数による鉛直流診断を
用いた解析の結果についても議論する. 

Dust devil-like vortices発生時の気流構造(藤原 忠誠)発表要旨 :

大気境界層には、風速や安定度に応じて、様々なスケールと形を持つ組織的気
流構造が存在し、地表面と大気間の熱・運動量・物質の輸送の大部分を担って
いる。晴天弱風日の対流境界層中には、Dust devilと呼ばれる非常に小スケール 
(直径10〜100m)の鉛直渦が発生することがある。Dust devilの鉛直渦度の形成
過程は、(1)環境風に伴う水平シア(Barcilon and Draizin,1972)、(2)網目状
構造が形成する水平渦度のTilting(Kanak et al., 2000)などが考えられてい
る。しかし、晴天時の気流構造の観測が困難であったことから、どのような
気流場でDust devilが発生しているのかを観測した事例は存在しない。 本研
究の目的は、都市域におけるドップラーライダー観測を行い、Dust devil
スケールの鉛直渦(Dust devil-like vortices, 以下DDLV)を検出し、発生時の
気流構造を明らかにすることである。 

その結果、DDLVが都市においても存在し、網目状構造の収束域で発達すること
を観測によって初めて示した。晴天弱風時(2.2m/s以下)の朝方から昼にかけて
網目状構造は観測されたものの、網目状構造に伴ったDDLVは、境界層高度が高
い昼の場合(600m以上)に限られた。

また網目上構造だけでなく、海風前線上で多数のDDLVが検出された。海風前線
上に伴う、強いDDLVが検出された2事例と鉛直渦が検出されなかった事例にお
いて、環境場と前線の構造の違いに着目し、解析を行った。その結果、海風前
線に伴うDDLVの形成に好都合な環境場は、(1)前線に平行な風の水平シアが比
較的大きいこと、(2)境界層高度が高いことであることが分かった。強いDDLV
が形成される事例において、水平シアが大きい場合、前線の構造は「K-H波状」
であった。また水平シアが前者の事例と同程度で、収束が大きく境界層高度が
高い事例における前線の構造は、時間変化が大きく、「凹凸状の形状」と
「K-H波状」であった。一方で、検出されなかった事例における前線の構造は、
DDLVが検出された事例に比べて平坦であった。

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連絡先

水田元太
mail-to: mizuta@ees.hokudai.ac.jp