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第 201 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 11月 12日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 2階 低温研研究棟講義室(215) Lecture room(215), Institute Low Temperature Science (2F)

発表者:中野渡拓也 \\Takuya Nakanowatari (低温 科学研究所 海洋・海氷動態グループ 博士研究員 \\Ocean-Ice Dynamics Group Research Group, Institute of Low Temperature Science, Post Doctoral Fellow)
題 目:オホーツク海および亜寒帯西部における中 層水温の長期トレンドの原因 \\ Mechanisms for 50-yr scale warming of the intermediate water in the Sea of Okhotsk and the western subarctic North Pacific: Insight gained with an ice-ocean coupled model

発表者:岩本 勉之 \\Katsushi Iwamoto (低温科学研究所 海洋・海氷動態分野 博士研究員\\Ocean-Ice Dynamics Group, Institute of Low Temperature Science, Post Doctoral Fellow)
題 目:AMSR-Eを用いた北極海の海氷生産量分布の見積り

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オホーツク海および亜寒帯西部における中 層水温の長期トレンドの原因 \\ Mechanisms for 50-yr scale warming of the intermediate water in the Sea of Okhotsk and the western subarctic North Pacific: Insight gained with an ice-ocean coupled model (中野渡拓也 \\Takuya Nakanowatari) 発表要旨 :

 最近の研究によれば、北太平洋中層水の上流に位置するオホーツク海中層
では昇温傾向 [Hill et al. 2003, Itoh 2007]が、また親潮域 [Ono et al.
 2001]や西部亜寒帯循環域 [Andreev and Watanabe 2002; Emerson et al.
2004]では溶存酸素の減少傾向が報告されている。これらの海域の海洋観測デ
ータを広域的に解析した研究によると、亜寒帯中層(26.8-27.2sigma_theta)
の昇温傾向や溶存酸素の減少傾向の起源は、オホーツク海中層水(OSIW)であ
ることが示されている[Nakanowatari et al. 2007]。オホーツク海では、冬
季に大陸からの寒気の噴出しに伴い、北西沿岸域で多量の海氷が形成される。
それに伴い、低温・低塩分の高密度陸棚水(DSW)が形成されるために、オホー
ツク海中層は低温、低塩に保たれている [Shcherbina et al. 2003]。したが
って、OSIWや亜寒帯西部中層に見られる昇温傾向や溶存酸素の減少傾向は、
オホーツク海におけるヴェンチレーションが弱まっていることを示唆する。
極東ユーラシア大陸の冬季の気温も過去数十年間で顕著な昇温傾向が観測され
ており、オホーツク海における海氷生産量の減少を支持する [Serreze et al.
 2000]。一方、北太平洋の風応力[Minobe 1997; Mantua et al. 1997]やオホ
ーツク海上層の塩分[大島ほか, 2009年度海洋学会春季大会]にも数十年スケー
ルのトレンドがみられることから、熱フラックス意外の要因が、オホーツク海
や北太平洋亜寒帯中層水の変化をもたらすことも考えられる。
 そこで、オホーツク海および亜寒帯西部の中層の長期変化を含めた経年変動の
原因を調査するために、比較的信頼できる大気データが得られる1979-2008年
のデータを用いた気候変動数値実験を行っている。モデルは、東京大学気候
システムセンターの海氷・海洋結合モデル(CCSR Iced COCO, 空間解像度0.5
x0.5degree)を使用している。モデルの中層水温データを解析した結果、オホ
ーツク海西部や北太平洋亜寒帯において中層水温の昇温傾向が見られた。オホ
ーツク海西部の昇温傾向は、27.0-27.1sigma_thetaを極大とする。一方、北太
平洋亜寒帯の昇温傾向は、より軽い密度面において大きくなっていた。これら
の昇温傾向は、観測データと定性的に合う。一方、オホーツク海東部において
は水温の低下がみられ、観測データとは異なる変動が見られた。
 次に、モデルの中層水温に見られる長期変動に対して、熱フラックス、淡水
フラックス、そして風応力の変化の寄与を見積もる感度実験を行った。その結
果、オホーツク海西部における中層水温の昇温傾向に対しては、熱フラックス
と淡水フラックスが主に寄与しているのに対して、北太平洋亜寒帯における昇
温傾向については、風応力の変化の寄与が大きな割合を占めることがわかった。
セミナーでは、これらの要因とDSWの形成量の変化や海洋循環場の変化との関連
を発表する。
 

AMSR-Eを用いた北極海の海氷生産量分布の見積り (岩本 勉之 \\Katsushi Iwamoto) 発表要旨 :

沿岸ポリニヤや氷縁域などの薄氷域では、秋冬季には大気によって多量の熱
が海洋から奪われ、多量の海氷生産が起こる。この熱交換は、高緯度大気にとっ
ては主要な熱源、海洋にとっては主要な冷源であり、その量は海氷の有無、海
氷の厚さに大きく依存する。しかし、海氷の厚さは非常に観測が困難であり、
氷厚分布はよくわかっていない量であった。近年、南大洋や北極海などにおい
て、マイクロ波放射計SSM/Iを用いて薄氷厚分布を見積るアルゴリズムの開発
が行われてきている。本研究では、SSM/I より空間分解能の高いAMSR-Eのデー
タを用いて北極海で同様の薄氷厚アルゴリズムの開発を行っている。

研究に用いたAMSR-Eの輝度温度データは、水平分解能は36GHzが12.5km、89GHz
が6.25kmである。これらの輝度温度の水平および垂直偏波成分の比(偏波比;
PR)を、 Tamura et al. (2007)と同様の熱収支計算で見積もった氷厚の参照
値と比較することにより、PR と氷厚の関係式を作成した。この式を使い、北
極海全体で2002年から2008年までの氷厚分布の時系列データを作成し、さらに
客観解析データを使って熱収支計算を行い、熱フラックスと海氷生産量を見積
もった。

海氷生産は海氷域や陸地から海に向かって風が吹いているところで活発であり、
秋以降の海氷域の拡大に伴い、海氷生産は徐々に低緯度側に移動した。全体と
して、秋季の単位面積あたりの海氷生産量は、バレンツ海やグリーンランド海
などの大西洋側の方が、東シベリア海やボーフォート海などの太平洋側よりも
大きい。しかし、太平洋側では海氷生産がそのまま海氷域の拡大に寄与してい
るのに対し、大西洋側では生産された海氷はすぐに融解していた。また、2007
年9月には北極海の海氷面積が過去最小を記録したが、このときボーフォート
海から東シベリア海にかけて氷縁が高緯度側に後退したことにより、10月のボー
フォート海やチュクチ海では他の年に比べてより高緯度側まで海氷生産が起こっ
ていたことがわかった。
  

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連絡先

堀之内 武 @北海道大学 地球環境科学研究院
地球圏科学部門
mail-to: / Tel: 011-706-2366