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第 200 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 10月 29日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂 Auditorium, Institute of Low

発表者:嶋田 啓資 \\Keishi Shimada (低温科学 研究所 環オホーツク観測研究センター 学術研究員 \\Ocean-Ice Dynamics Group/Atmosphere-Ocean Interaction Research Group, Institute of Low Temperature Science, Post Doctoral Fellow)
題 目:主温度躍層におけるsalt fingerの効果 \\The effect of salt finger in the main thermocline

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主温度躍層におけるsalt fingerの効果 \\The effect of salt finger in the main thermocline (嶋田啓資 \\Keishi Shimada) 発表要旨 :

 Salt fingerとは密度場が安定でありながらも、上層が高温・高塩分という様に塩分
 が重力的に不安定な成層をしているとき、熱と塩分の分子拡散係数の相違によって塩
 分成層に内在するポテンシャルエネルギーが解放されることによって生じる鉛直対流
 である。この対流は水温、塩分の密度場への寄与が相殺し、鉛直密度勾配が小さく流
 体の鉛直移動が阻害されにくい状況(水温、塩分の鉛直密度勾配に対する寄与の比で
 ある密度比が1に近い値をとる)で活発化することが知られている。また、salt
 fingerは熱よりも不安定に成層している塩分をより効率的に鉛直方向に輸送するた
 め、密度の鉛直勾配を強化(密度比を増加)させるという特徴をもつ。Figueroa
 (1996)、 You (2002)らが気候値より求めた密度比の分布から各大洋の主温度躍層
 ではsalt fingerの発生を支持する成層をしていることが明らかとなっており、salt
 fingerの発達を阻害する乱流の強度は弱いと考えられている(Ledewell et al.,
 1993)ため、salt fingerの発生条件は整っていると期待される。しかし、微細構造観
 測などの直接観測の例が極めて少なくsalt fingerの主温度躍層における効果は不明
 である。一方、主温度躍層の水温、塩分の構造はsubductionによって冬季表層混合層
 のそれの影響を強く受けることが知られている(Stommel, 1979)。このことは同時に
 冬季表層混合層の水温、塩分の構造が主温度躍層に供給される水の密度比、つまりは
 salt fingerの活発度を決定することを示唆している(e.g. Schmitt, 1999)。また、
 salt finger自体にも密度比を増加させる効果があるため、Figueroa (1996)、
 You(2002)らが気候値より求めた密度比にはsubductionとsalt fingerの二つのプロセ
 スの寄与が影響していると考えられる。そこで本研究では、主温度躍層の密度比を決
 定する主なプロセスの一つであるsubductionによる寄与をArgo フロートデータから
 把握することによって、もう一方のプロセスであるsalt fingerの効果を検証した。
 解析の結果、主温度躍層に供給される水の密度比は冬季表層混合層の水温、塩分の南
 北構造と対応していることが確認され、特に北大西洋、南北大西洋における東部亜熱
 帯モード水の形成域では、subductionが活発なsalt fingerを引き起こすことが示唆
 された。 

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連絡先

堀之内 武 @北海道大学 地球環境科学研究院
地球圏科学部門
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