****************************************************************************************************************

第 184 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 7月 10日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 2階 講堂

発表者:中村 知裕 (環オホーツク観測研究センター 講師)
題 目:アリューシャン列島における潮流による内部波生成と鉛直混合

発表者:池田 元美 (統合環境科学部門 広領域連携分野 教授)
題 目:北極海の海氷変動に現れる自然変動と地球温暖化の影響

****************************************************************************************************************

アリューシャン列島における潮流による内部波生成と鉛直混合 (中村 知裕) 発表要旨 :

 海洋における内部波(内部慣性重力波)は、鉛直混合の主なエネルギー源と みなされている。 
 鉛直混合は全球規模の海洋熱塩循環の形成・維持に重要な役 割を果たし、熱塩循環は気候の 
 形成・変動に影響している。 
  潮流は海洋内部波の主要な生成源の一つであり、アリューシャン列島および 千島列島は 
 潮流による内部波生成が活発な海域である。とくに後者の千島列島 域では発表者らの数値 
 モデル研究から、日周潮流が非常に強く、大振幅内部波 の生成・砕波に伴う激しい鉛直混合 
 が引き起こされていること、この潮汐によ る混合がオホーツク海および北太平洋中層の 
 水塊形成や循環したがって物質循 環にも影響していることが指摘されている。 
  アリューシャン列島も力学的状況は千島列島と似ていることから、同様の大 振幅内部波 
 生成が生じていると予想される。しかも、千島列島と異なり経済水 域による観測制限がなく、 
 数値モデルや理論に基づく予想を観測で確かめられ る。そこで、アリューシャン列島において 
 内部波と鉛直混合の観測を昨年今年 と実施した。その結果、高さ200mに達する大振幅内部波を 
 捉えることに成功し た。また、強い鉛直混合が生じていることも示唆された。こうした内部波 
 の生 成過程を数値モデルで定性的に再現した結果、観測された大振幅内部波は、千 島列島と 
 同様にシル(海底山脈)上を流れる日周潮流により生成された非定常 風下波であることが 
 示唆された。 
   

北極海の海氷変動に現れる自然変動と地球温暖化の影響 (池田 元美) 発表要旨 :

 北極海の海氷は地球温暖化のインディケータとして目立つものである。 
 実際に最近40年で減少しており、IPCC報告書に示されている温暖化実 
 験における減少よりも早い。しかし一方で、ことさら急変を強調する 
 報道も見受けられるので、どのようなメカニズムが働いて減少してき 
 たのか、そして10年程度の周期をもつ変動が現れるのか、注意深く検 
 証する必要がある。 
 これまでの研究により、次のことがわかった。氷・アルベドのフィー 
 ドバックが効果的であることはもちろんだが、それ以外に雲の増加も 
 同程度の効果がある。さらに正の北極振動によって海氷が移動し、北 
 極海と大西洋の海水交換が進むことも、減少に影響する。最近10年で 
 はむしろ太平洋側の海氷が減少しており、いろいろなメカニズムが提 
 案されている。 
 本研究では、北極海をはさむ太平洋と大西洋の北端で海面水位の差が 
 あると、北極海を通路とする流れが生じ、北極海の海氷分布にも影響 
 が出るとする考えに基づき、ベーリング海の水塊構造を解析した。 
 1970年前後のGreat Salinity Anomaly (GSA)の直前と1990年以降、 
 ベーリング海のsteric heightが上昇しており、その結果として太平 
 洋から大西洋に向う流れが生じ、北極海の太平洋側で海氷が減少した 
 可能性がある。 
 また、北極海の太平洋側と大西洋側で海氷面積が逆位相の経年変動を 
 しており、それにシベリアとグリーンランドに逆符号を持つ大気圧力 
 場が相関していることを見出した。シベリアに負・グリーンランドに 
 正の大気圧力場があると、その1−2年後に太平洋側で海氷が減り、 
 大西洋側で増える。風応力なのか、気温や雲の変化なのか、どのメカ 
 ニズムがもっとも効果的であるかについては、今後、大気データとモ 
 デルを用いて確認しなくてはならない。 
  
 The sea ice cover in the Arctic Ocean has declined in the last 40 years and reaches the extreme condition. In particular, the summer ice cover hit a record low in 2007, leading to a prediction of disappearance of the summer ice cover by 2020. On the basis of significant year-to-year variability, such an early disappearance might be exaggeration. Therefore we need to examine the crucial mechanisms. 
 The recently archived data were analyzed for providing the following signals: i.e., the cloud cover has increased and contributed to the ice reduction through the radiation balance. The biogeochemical data indicate ocean interior responses to the Arctic Oscillation. An analysis has been extended to the sea level rise in the Bering Sea as a consequence of atmospheric circulation and contribution to inflow of the Pacific Water into the Arctic Basin, in prior to Great Salinity Anomaly in 1960s and a sudden sea ice decrease in the Pacific sector in late 1990s. The other aspect is the Arctic Dipole Mode (ADM) as the second EOF of sea level pressure. In last 50 years, the Pacific sector had low ice cover at one-year lag from the ADM with a low pressure over the Siberian Shelf. Since this mode was extremely intense in 2007 summer, the sea ice is predicted to be low in 2008. 
  
 It has been claimed that most projections underestimate sea ice reduction in the Arctic during this century. Our tasks include removal of possible biases due to different sensors and accurate estimates of the important feedbacks contained in the atmosphere-ice-ocean system. Then, answers will be found for the questions, when the Arctic sea ice becomes a seasonal ice cover. 

-----
連絡先

川島 正行 @北海道大学低温科学研究所
寒冷海洋圏科学部門 雲科学分野
mail-to:kawasima@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-6885