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第 167 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 1月 18日(木) 午前 09:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:飯嶋 裕司 (大気海洋物理学・気候力学コース D2)
題 目:南大洋における海面水温の時空間変動に伴 う大気場応答の研究〜しらせ海上気象データを用いて〜

発表者:深町 康 (寒冷海洋圏科学部門 海洋動態分野 助手)
題 目:海底設置ADCPと海洋レーダによる宗谷暖流流量の見積り

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南大洋における海面水温の時空間変動に伴う大気場応答の研究

〜しらせ海上気象データを用いて〜 (飯嶋 裕司) 発表要旨 :

  
 近年、衛星観測によって高分解能で海面における観測が可能 
 となり、黒潮続流域やGulf Stream域などの中規模擾乱の発達する 
 海域において、海洋の中規模渦スケールの変動が大気へ影響を与え 
 ていることが示された(Nonaka and Xie 2003, Xie et al. 
 2004,Chelton et al. 2004 etc.)。一方、南大洋においても、同様 
 の衛星観測データ(O'Neill et al. 2003 and 2005)や歴史的船舶観 
 測データ(Tokinaga and Tanimoto 2005)などによって、海洋から大 
 気への影響の評価を試みた研究がある。また、修士論文では、衛星 
 観測データを用いて、南極周極流域の中規模擾乱と海面水温および 
 海上風速の関係が、それぞれ正の相関関係にあることを示した。し 
 かし、南極周極流域では、船舶観測がまったく無いために、気象要 
 素を含めた解析が困難である。そこで、本研究は、南大洋で定常観 
 測を行っている"しらせ"の海上気象データを用いて、南極周極流域 
 における大気海洋間の応答を評価することが目的である。 
  
 しらせの海上気象データは、毎時観測データ(インテーク水温、気 
 温、風速、風向、気圧 etc)、表面採水データ(1日2回、バケツ採水 
 水温、気温 etc)、XBT/XCTD水温データである。しらせの航路は、 
 110°E線上を12月に南下し150°E線上を3月に北上する。インテーク 
 水温は、バケツ水温とXBT/XCTDの0m水温を用いて補正が行われ 
 た。 XBT/XCTDデータから、Nagata et al. 1988の南極周極流フロ 
 ントの定義に従い、南極周極流フロントの位置を求めた。 
  
 南極周極流域における海面水温フロントの位置は、XBT/XCTDから求 
 められた亜表層の水温フロントと良く一致する。この海面水温フロ 
 ント上で、総観規模影響が小さいと思われる気温の南北勾配が小さ 
 い航海を選択した。また、それぞれの海上気象要素に対して南北の 
 波長が1.2度よりも短い波長について注目し、それぞれの要素の南 
 北変化を調べた。 
  
 結果、Sub-Antarctic Front (SAF)域では、短波長の海面水温の南 
 北勾配と短波長の東西風速の南北勾配には、約0.6の正の相関関係 
 が見られた。さらに、短波長の海面水温の南北勾配に対し、それぞ 
 れが短波長の静的安定度(海面水温-気温)の南北勾配および乱流熱 
 フラックス(潜熱+顕熱フラックス)の南北勾配は、ほぼ一対一の関 
 係にある。このことから、海面水温偏差が正(負)になるとき熱フ 
 ラックスが大気に与えられ、大気は不安定(安定)化し結果として海 
 上風を加速(減速)させることを示唆する。 
  
 以上の結果によって、現場観測データからSAF上において、海洋が 
 熱フラックスを通して大気の静的安定度に影響を与え、結果として 
 海上風が変化するという、海洋から大気への影響を示すことができ 
 た。 
  

海底設置ADCPと海洋レーダによる宗谷暖流流量の見積り (深町 康) 発表要旨 :

  
 2004年5月から1年間に渡って、浜頓別沖の宗谷暖流の流軸付近で、ADCPを海底  
 に設置して、宗谷暖流の鉛直構造の連続観測を行った。このデータにより、鉛  
 直構造の明瞭な季節変動が明らかになった。その変動とは、日本海から密度の  
 低い水塊が流入する夏から秋にかけては正の鉛直シアーが存在し、密度の高い  
 水塊が流入する冬から春にかけては、負の鉛直シアーが存在するというもので  
 ある。このADCPによる鉛直構造のデータを、宗谷海峡付近で海洋レーダによっ  
 て計測されている表面流の水平構造のデータと合わせて、宗谷暖流の流量の見  
 積りを行ったところ、年平均値は約1Svであった。この値は、過去に見積もられ  
 た対馬暖流、津軽暖流の流量と整合性のあるものとなった。 
  
  
  

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連絡先

豊田 威信 @北海道大学低温科学研究所
寒冷海洋圏科学部門 大気海洋相互作用分野
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