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第 166 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 12月 14日(木) 午前 09:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:森 正人 (大循環力学講座・D3)
題 目:〜2005/06年の異常な冬について〜
2005年12月の「北極振動」の励起と予測可能性

発表者:山中 康裕 (地球圏科学部門 気候力学分野 助教授)
題 目:海洋酸性化について

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〜2005/06年の異常な冬について〜
2005年12月の「北極振動」の励起と予測可能性 (森 正人) 発表要旨 :

  
   昨年の冬(2005年/06年)は異常な冬であった。昨年の12月から今年の1月上旬に 
 かけて、強い冬型の気圧配置が断続的に現れ、日本は記録的な寒さと豪雪に見舞 
 われた。特に12月は、月平均気温が東・西日本で戦後最も低くなるとともに、各 
 地で最深積雪の記録を更新した。このため、家屋の損壊や農業被害、交通障害、 
 電力障害など各地で多数の被害が発生し、社会的・経済的に大きな被害が発生し 
 た。また除雪中の事故や落雪などで、65歳以上の高齢者を中心に多くの死傷者が 
 出るなど、人的被害も甚大であった(気象庁は、この記録的な大雪・低温現象を 
 「平成18年豪雪」と命名した)。 
   このような社会的に大きな影響を及ぼす現象を理解することは、学術的にはも 
 ちろん、社会的にも重要であると考えられる。そこで本研究では、昨年12月の異 
 常を大気の長周期変動の視点から明らかにし、その予測可能性について議論する 
 ことを目的とする。 
   2005年12月は、日本を含む極東から太平洋にわたって東西へ伸びる強い負の高 
 度場偏差が卓越・持続しており、それに伴い北極振動指数が持続的にマイナス 
 で、極域の寒気が中緯度域へ吹き出しやすい循環偏差場であった。本研究では、 
 同月の「北極振動」(典型的な北極振動とは異なるのでカギ括弧つき)に着目し、 
 その励起および予測可能性に関する解析を行った。11月末から12月上旬にかけて 
 は、高度偏差場は北極振動というよりはWP(Western Pacific)テレコネクション 
 パターンに類似しており、12月中旬から1月上旬にかけては、PNA(Pacific 
 North/American)指数と回帰をとった偏差場に酷似していた。また同月は、ベン 
 ガル湾から南シナ海にかけての領域で、平年に比べて異常に対流活動が活発で 
 あった。この熱帯対流活動と中緯度の大気循環場の関係を、観測データおよび線 
 形傾圧モデルを用いて調べた。さらに、気象庁1か月アンサンブル予報のデータ 
 を用いて、上記の解析結果との比較および予測可能性に関する解析を合わせて 
 行った。 
  
  
  

海洋酸性化について (山中 康裕 ) 発表要旨 :

  
 海洋による人為起源二酸化炭素の吸収は、大気中二酸化炭素濃度を 
 減少させるので、地球温暖化を防ぐ方向に働くが、それ自身は、海 
 水に溶けた二酸化炭素が弱酸として、約pH8の弱アルカリの海と中 
 和反応に他ならない。現在は、産業革命前に比べて約0.1減少し、 
 IS92aシナリオに沿えば、今世紀末にはさらに0.3低下する。それに 
 伴い、全海域において海洋表層水中の炭酸カルシウム濃度が半減す 
 る。元々低いカルシウム濃度だった高緯度海域では、炭酸カルシウ 
 ムの結晶体の一つであるアラゴナイトに対する飽和濃度を下回るよ 
 うになる。その結果、アラゴナイトの骨格や殻を持つ冷水サンゴや 
 翼足類に影響を与えると思われる。これらは、Natureに発表した海 
 洋炭素循環モデル相互比較研究(OCMIP)による結果の他に、海洋酸 
 性化に関する昨年英国ロイヤルソサエティ報告書、今年米国NSF報 
 告書が出され、雑誌ニュートンや日経サイエンスなどでも紹介され、 
 最近注目されている。大気海洋物理学・気候力学セミナーで今まで 
 話していなかったので、今回紹介することにした。時間があれば、 
 海洋生態系モデリングについて、どのように発展させていこうかと 
 思っていることも話したい。 
  
  

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連絡先

豊田 威信 @北海道大学低温科学研究所
寒冷海洋圏科学部門 大気海洋相互作用分野
mail-to:toyota@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7431