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第 163 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 11月 9日(木) 午前 09:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:三角 和弘 (気候モデリング講座・D3)
題 目:大規模火山活動に対する海洋環境と物質循環の応答

発表者:豊田 威信 (寒冷海洋圏科学部門 大気海洋相互作用分野 助手)
題 目:オホーツク海南部の海氷と積雪の特性について

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大規模火山活動に対する海洋環境と物質循環の応答 (三角 和弘) 発表要旨 :

  
 白亜紀中期(約1億年前)には海洋無酸素事変(OAE)と呼ばれる地質学的イベントが 
 5回起こった.このイベント時の地層では有機物含有率の高い黒色頁岩の埋没と 
 炭素同位体比の大きな変動が見られ,これらは当時の海洋深層無酸素化と炭素循 
 環の大きな変動を意味する.このイベントの時間スケールは100万年程度と地質 
 学的には短く,約4000万年間の白亜紀中期の中の特異的時期として注目を集めて 
 いる.OAEの発生と大規模火山活動による巨大火成岩岩石区(LIP)の形成が同時期 
 であることから,OAE発生の引き金として大規模火山活動が考えられている.大 
 規模火山活動は同位体比の小さい(-5‰)大量の二酸化炭素を大気海洋系内に供給 
 するため,急激な温暖化による海洋深層の無酸素化や炭素同位体比変動を定性的 
 に説明できる.そのこともこの説が支持される理由になっている. 
  
 本研究ではこのことを踏まえ,大規模火山活動に対する大気海洋-物質循環の応 
 答を数値モデルを用いて調べ,OAE発生の過程が定量的に説明できるか調べた. 
 用いたモデルは,海洋部分は低・高緯度に分けた鉛直1次元モデルで,海洋物質 
 循環はYamanaka and Tajika (1996),岩石圏の炭素循環に関してはBerner (1991) 
 を参考にし作った.外力として火山ガスを数十TmolC/yrの噴出率で,100万年程 
 度の時間スケールで与えたところ,地質学的証拠から知られるOAE-1aの炭素同位 
 体比の正・負偏差と海洋深層の無酸素状態の時間スケールが大体一致する結果が 
 得られた.その時の炭素同位体比の変動要因を調べるため収支解析した結果から, 
 OAEの発生から終焉までの炭素同位体比変動について議論する.次にOAE-1a発生 
 と同時期に形成されたLIPであるオントンジャワ海台形成による炭素流入量を推 
 定値とこの実験で与えた外力との比較からOAE-1aの発生時火山活動について議論 
 する. 
  
  
  

オホーツク海南部の海氷と積雪の特性について (豊田 威信) 発表要旨 :

  オホーツク海南部の海氷は冬季のみに出現する季節海氷域、また、 
 世界的に最も低緯度に位置する"warm ice"として特徴づけられる。 
 従来、極域における海氷観測は数多くなされてきたものの、こういった 
 海域の海氷の特性に関しては観測の困難さなどから未知の部分が多い。 
 従ってこの海域の海氷の成長過程に関しても理解は不十分な状況にある。 
 海氷のみならず海氷上の積雪の特性も海氷の成長に影響を及ぼすことが 
 知られているが、これまで観測が甚だ不十分な状況にあった。 
  
  そこで、オホーツク海南部の海氷および海氷上の積雪の一般的な特性を 
 把握するために、砕氷巡視船「そうや」を用いて海氷拡大期の2月に3年間に 
 わたって観測を行った。現場で海氷コアを採取して解析を行った結果、 
 1)海氷の結晶構造は粒状氷(全層の約5割)と層状構造(平均層厚12cm)が 
 顕著であること、2)氷盤を構成する海氷ブロックの平均厚は約30-40cmで 
 あること、3)海氷上の積雪はしもざらめ雪卓越していることなど、 
 季節海氷域特有の性質が明らかになった。特に1と2の結果から、この海域の 
 海氷成長には力学的な変形過程が本質的であることが示され、南極海氷との 
 類似点が見出された。また、酸素安定同位体比を用いて、積雪の海氷への 
 寄与として雪ごおりは約1割、質量比は1-2%と見積もられた。加えて、海氷内の 
 ブライン体積比および氷高データを用いてリモートセンシングによる氷厚推定の 
 可能性も吟味された。発表ではつい最近行ったウェッデル海での観測結果との 
 比較も交えてお話しする予定。 
  
  
  

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連絡先

豊田 威信 @北海道大学低温科学研究所
寒冷海洋圏科学部門 大気海洋相互作用分野
mail-to:toyota@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7431