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第 160 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 7月 6日(木) 午前 09:30
場 所:環境科学院 2階 講堂
発表者:山口 裕康 (気候モデリング講座・D3)
題 目:北極域の大気変動に対する北極海内部構造の変動
発表者:三寺 史夫 (環オホーツク観測研究センター・教授)
題 目:海嶺上の局所的な混合によって生ずる時計回り循環の形成過程
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北極域の大気変動に対する北極海内部構造の変動 (山口 裕康) 発表要旨 :
北極上空では反時計回りの極渦の強度が10年周期変動(北極振動)しており, その大気変動が,北極海の風応力,海氷運動,さらに海洋構造の変動を励起して いると考えられる.海氷運動の変動は海氷分布の変動として観測されており, その変動には10年周期のものが見られ,海氷の減少は地球温暖化の指標の一 つである.一方,海洋構造の変動については,永年海氷に覆われている北極海か らデータを採取することが非常に困難なことからこれまで観測に基づいた 確認はされていない.さらに北極海の物理データは主に旧ソ連時代に採取さ れ,水温,塩分に関しては,Environmental Working Group (EWG) による10年 平均されたものしか公開されていないため,10年周期の海洋変動をこれらの データからとらえることは難しい. そこで本研究では,EWGによる水温,塩分データと共に,0℃で定義された大西 洋水上層面の深度や海面力学高度等の物理データ(1950年〜1989年),旧ソ連 によって観測されたケイ酸塩,リン酸塩,溶存酸素等の化学データ(1948年〜 2000年)を解析することで,より短い時間スケールの海洋構造変動を見いだし, 北極海の大気変動に対する北極海内部構造の変動について解析した. カナダ海盆の海水は,太平洋から流入した太平洋水とシベリア陸棚からの河川 水に含まれるケイ酸塩によって特徴づけられている.夏期は上層100m内に季 節変動が現れるものの,100m以深では常に大西洋水の代表値に低下していく. 200m以深のケイ酸塩の時系列をとると,その増減は,北極域の代表的な大気変 動である極渦の変動,特に10年周期の北極振動に対応していることが分かった (Ikeda et al., 2005).一方,濃度極大の深さがケイ酸塩と異なるリン酸塩,溶存酸 素にも大気変動に対応した変動が見られるが,その振幅はケイ酸塩より小さかっ た.また,北極海表層の北極水とその下層に広がる大西洋水の境界面の上下運動 も北極振動に対応しており,極渦が強まる(弱まる)と,海面近くの時計回り大気 循環による風応力が弱まり(強まり),エクマン発散(収束)により,密度面が上昇 (下降)し,ケイ酸塩濃度が減少(増加)するという,北極振動に起因する風応力の 変動が海洋構造変動を引き起こしていることが確認できた.
海嶺上の局所的な混合によって生ずる時計回り循環の形成過程 (三寺 史夫) 発表要旨 :
風成循環が形成されている北部とは異なり、オホーツク海南部では時計回りの 循環が卓越している。ここでは、このような時計回り循環形成のメカニズムと して、千島列島沿いでの局所的な混合により駆動される熱塩循環を考える。潮 流が浅い海峡(すなわち海嶺上)を越えるときに大振幅の内部波が発生・砕波 し、中層に低渦位水が供給され、それが熱塩循環を駆動するのではないか、と いうことである。このような状況を考察するために、海嶺がある2層モデルで、 海嶺直上で下層から上層へのエントレインメント(鉛直流速)があるという単 純なケースを考える。線形の場合には、海嶺上でスベルドラップ平衡による南 下流、その西側で時計回りの再循環、という、線形βプルームの解が得られる。 一方、混合が比較的強く非線形性が重要な場合には海嶺上で強い高気圧性渦が 間断なく発生し、それが西方に伝播して低渦位水を供給する。この場合は平均 場においても密度境界面は海嶺とその西側で大きくくぼみ強い時計回りの循環 が生ずる。また、これらの二つの解には、初期条件に依存した多重性があるこ とが分かった。
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