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第 159 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 6月 29日(木) 午前 09:30
場 所:環境科学院 2階 講堂
発表者:久保川 陽呂鎮 (大気海洋物理学・気候力学コース D2)
題 目:全球雲解像大気モデルを使用しての熱帯対流圏界面領域の解析
発表者:西川 史朗 (大循環力学講座 D3)
題 目:季節変化を含めた理想化OGCMにおける混合層フロント
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全球雲解像大気モデルを使用しての熱帯対流圏界面領域の解析 (久保川 陽呂鎮) 発表要旨 :
熱帯の対流圏界面は、その気温の低さから対流圏から成層圏に空気が輸送さ れる時、空気の持つ水蒸気量を減少させる働きがあると考えられてきた。 Brewer(1949)は成層圏の水蒸気の濃度が低いことを観測し、その観測事実を説 明するため、成層圏の空気は熱帯の圏界面を通過している、という仮説をたて た。しかし、熱帯の全ての対流圏界面が観測される成層圏の水蒸気濃度を説明 できるほど冷たいわけではない。そこでNewell and Gould-Stewart(1981)は観 測から得られた熱帯の100hPaの月平均気温を調べることで、北半球冬季の西部 太平洋のような限られた領域では、成層圏で観測される低い水蒸気濃度を作る ことができるほど冷たい事を示した。この領域において対流圏から成層圏に空 気塊を通過させることができれば成層圏の低い水蒸気濃度を作れると考えられ た。これは対流圏界面付近にまで達する(貫通する)ほどの背の高い対流雲によっ て担われていると考えられてきた。しかし、1990年代後半にでてきた TTL(Tropical Tropopause Layer)という概念の下、対流圏と成層圏の大気交換 (STE)を積乱雲に担わせる必要はなくなった。それは以下のような事実からき ている。 Folkins et al.,(1999)のサモア(約179°W,14°S)での観測によると、積乱雲 は滅多に高度14kmより上空には到達しないことがわかったのである(非常に低 い頻度で対流圏界面を ovet shootする場合もある;Gettelman et al.,2002)。 これにより、STEにおける対流雲の役割は非常に弱いものになってしまった。 TTLの概念の重要性は、TTL内が安定な成層であり、対流活動だけでなく放射や、 積乱雲に励起された擾乱などもTTL内の空気塊の運動に対して重要なプロセス となってくるところである。 以降はTTL内の鉛直運動に比べて十分速い水平運動が着目されるようになる。 Holton and Gettelman(2001)は水平輸送に注目して簡単な数値実験を行ない、 TTL内を準水平運動(背景場には弱い鉛直流も存在するため)する空気塊が 上で 挙げた Newell and Gould-Stewart(1981)で指摘されたような低温領域を通過 するプロセスを考えることで成層圏の水蒸気濃度が説明できると主張した。 この考えはHatsushika and Yamazaki,(2003)によってGCMで確認されている。 現在では、このTTL内の準水平運動のプロセスがSTEを考える上での有力な説の 1つとなっている。 それとは別に組織化した積乱雲群に励起された赤道ケルビン波(大規模擾乱)に よってSTE・TTLへのインパクトを説明する考えもある(e.g., Fujiwara et al.,1998)。加えて、対流圏界面を over shootした積乱雲(小規模)によるSTE へのインパクトに注目する考えも未だ根強く残っている。 STEに伴う成層圏水蒸気の増減は成層圏オゾンの増減にインパクトを与えるた めに気候学的に興味深い。又、上述したTTL・STEへ影響を与えるプロセスのう ち、どれが最も効果的であるかは検証されていない。そしてそれを検証するこ とは大気科学の観点から興味深い。本研究の目的はこれらのスケールの異なる プロセスのうち、どれが主要にTTL・STEに影響を与えているか検証することに ある。 これを可能にする道具として本研究では地球シミュレーターで計算 されたNICAM(Nonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Model;Tomita et al.2004) という高分解能の全球雲解像大気モデルの出力結果を使用する。NICAMは 14km,7km,3.5kmという非常に細かい空間分解能を有し、かつ全球にデータがあ るため、水平スケールが10km以下の積乱雲だけでなく、数百ー数千kmスケール の組織化した対流雲も扱えるという非常に優れた特徴を有している。これは同 時にスケールの異なる両者の相互作用による大気循環も正しく表現できる。 又、雲をデータから定義できるため観測等からは掴みづらい対流雲の到達高度 を決めることができる。これは新たなTTLの定義を構築できる能性がある。こ のようなモデルが出てきた事で世界で初めてこれらの問題に取り組めるわけで ある。 現在のところ、地球シミュレーター上でのNICAMによる数値実験は水惑星実験、 現実的な海陸分布を考慮した6月の条件における実験、および同様の海陸分布 を考慮した2004年4月の条件における3種類の実験が行なわれている。現在私は 水惑星実験のアウトプットの解析を始めたところである。水平解像度3.5kmの データを調べたところ、最小気温で定義した対流圏界面の高度に強いインパク トを与えている現象として赤道ケルビン波の存在が見られた。又、対流圏界面 を over shootしている雲の存在も見られた。同時に新しい知見として子午面 方向に伸びた気温の分布が対流圏界面付近の高度で見られた。今回の発表では これらの結果を示したいと考えている。
季節変化を含めた理想化OGCMにおける混合層フロント (西川 史朗) 発表要旨 :
北半球亜熱帯循環域の北側には, 海洋表層混合層の深さが北向きに急に深く なるフロント状の領域が存在することが知られており, 混合層フロントと呼 ばれている. 過去の研究から, 混合層フロントはモード水(低渦位水)の形成 場所であり, 亜熱帯反流の形成において重要な役割をしていることが指摘さ れている. これまでの研究では(Nishikawa and Kubokawa 2006, 投稿中), OGCMを用い, 定常かつ理想化された設定の下での混合層フロント形成のメカ ニズムとそこでのサブダクション過程を調べた. その中で, 地衡流(Ug)によ る海面水温(Ts)の移流が負である領域(Ug grad Ts < 0)の南限が対流の起こ りうる領域の南限を与え, この位置が混合層フロントの位置に対応するとい うことを示した. 本研究では, 上述の定常モデルに簡単な季節変化を加え, 季節変化がある場合の混合層フロントについて調べた. 混合層フロントは1年の中で, 深い混合層の存在する時期(モデルの12月から 4月上旬)に存在する. 混合層の発達期(12月〜2月)は海面熱フラックスが亜 熱帯循環全域で海面冷却の向きでありサブダクションは起こっていない. 一 方, 混合層の後退期(3月〜4月上旬)は, 地衡流による海面水温のラグランジ ュ的変化(DTs/Dt)が正の場所でサブダクションが起こり, その北限(DTs/Dt=0 の場所)が混合層フロントの位置に対応する. 主水温躍層へのサブダクションは混合層が最も深い時のサブダクションで決 まる(Stommel 1979, いわゆる Stommel's mixed layer demon仮説). 混合層 の最も深くなる時期(2月末)は, 海面熱フラックスが冷却から加熱へ転じて いるときであるので水温場のローカル時間変化は相対的に小さく, 代わりに 地衡流による移流(Ug grad Ts)が重要となる. これは定常場と似た状況であ り, 定常場で行なった混合層フロントに関する議論は季節変化のある場合も 妥当であることを示唆する. 実際, そのときの地衡流による海面水温の移流 がゼロ(Ug grad Ts = 0)の位置と混合層フロントの位置が一致することを確 かめた. 以上より, 混合層フロントは, 流れの場を別にすると混合層の最も 深くなる時期の海面水温場(海面等温線の傾き)で決まるといえる. これを確 かめるため, その時期の海面水温分布を変える実験をいくつかを行なった. その結果, 混合層の最も深くなる時期の海面水温分布の違いに対応して混合 層深分布・混合層フロントの位置にも違いが出ることを確かめた.
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