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第 157 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 6月 22日(木) 午前 09:30
場 所:環境科学院 2階 講堂

発表者:川島 正行 (寒冷海洋圏科学部門 雲科学分野 助手)
題 目:寒冷前線降雨帯のコア-ギャップ構造の成因に関する数値実験

発表者:谷本 陽一 (地球圏科学部門 大気海洋物理学分野 助教授)
題 目:南アメリカ大陸及びアフリカ大陸における降水量の1年サイクルの特徴

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寒冷前線降雨帯のコア-ギャップ構造の成因に関する数値実験 (川島 正行) 発表要旨 :

  
 寒冷前線に伴う降雨帯(Narrow cold frontal rain band, 以下NCFR) 
 は,しばしば前線に対して時計回りに傾いた軸を持つ強雨域(降水コア)と 
 弱い雨域(ギャップ)からなる波長10km程度の波状構造を示すことが 
 古くから知られている (Hobbs and Biswas 1979,QJRMS ;  
 James and Browning 1979, QJRMS). その成因として, これまで多くの研究 
 で寒冷前線に伴う強い水平シア流の不安定(水平シア不安定)が示唆されてきた 
 (Hobbs and Persson 1982,JAS; Moore 1985, JAS など). 
 シアライン上で実際に水平シア不安定が起こると、最終的にはシアライン 
 はロールアップし、明瞭な渦状の循環が生じ、その循環を反映し降水帯 
 は大きな曲率を示す(Lee and Whilhelmson 1997, JAS; Kawashima and  
 Fujiyoshi 2005, JAS など). これに対しNCFRの降水コアは直線的であり, 
 最近のドップラーレーダ観測(Wakimoto and Bosart 2000, MWR)でも寒冷 
 前線上の鉛直渦度はほぼ一様であることが示されている. このように,水平 
 シア不安定ではその成因を説明しにくい点が多い. 
  
 そこで本研究では三次元雲解像モデルによる数値実験により,NCFRのコア- 
 ギャップ構造の成因について調べた.寒冷前線は南北(y方向)の走向を持ち, 
 大規模場の南北温度勾配に起因した前線強化(shear frontogenesis)が起 
 こる場合を想定した. 南北方向には周期境界とした. 最初の20時間は全て 
 の物理量が前線に沿った方向に一定となるような設定で積分し,東西-鉛直 
 の二次元の寒冷前線構造の再現を行う. その後、通常の三次元積分を行い 
 前線上での擾乱の構造・発達について調べた.  
  
 実験の結果、過去の観測と良く似た前線に対し時計回りに傾いた軸 
 (南西-北東方向)をもつ降水コア(間隔は12km程度)や観測と整合的な地上で 
 の物理量の分布が再現された.  
 降水コアは寒冷前線面上の鉛直シアが強く、かつ成層が不安定な領域に 
 波動状の擾乱(KH波と似た構造の擾乱)が発達することにより形成されていた.  
 この擾乱の位相線は基本場(前線に沿った方向の平均場)の水平風の鉛直シア 
 ベクトル(北西方向)とほぼ直交しており、運動エネルギー収支解析により 
 平均鉛直シア流からのエネルギー変換と浮力の効果により発達・維持して 
 いることが分かった. 一方、平均水平シア流からの変換の寄与はこれらに 
 比べ一桁小さかった.  
  
 他に成層の安定度を変えて感度実験を行ったが,暖域側の下層が弱い潜在 
 不安定の場合(CAPEで20〜120J/kg程度)に前述の前線に対し時計回りに傾 
 いた降水コアが形成し,成層が安定〜非常に弱い潜在不安定の場合は、 
 波動状の擾乱は生じず,前線に対し平行なコアが形成された. 
 以上の結果からNCFRのコア-ギャップ構造の成因は、これまで多くの研究で 
 示唆されていた水平シア不安定ではなく、熱的に不安定な前線面上の強い 
 鉛直シア流の不安定であると考えられる. また,暖域側の成層が十分不安定 
 な場合には鉛直シアベクトルとほぼ平行な位相線をもつ擾乱が生じ、前線 
 に対し反時計回りに傾いたコアが形成された.  
  
  

南アメリカ大陸及びアフリカ大陸における降水量の1年サイクルの特徴 (谷本陽一) 発表要旨 :

 Mitchell and Wallace(1992)は外向き長波放射量(OLR)の解析から気 
 候学的な季節サイクルにおける降水帯の南北移動について検討した.OLRの 
 極小値として判断される熱帯収束帯に伴う降水帯は,海洋上では赤道の北側 
 に1年を通して位置するのに対し,陸上では太陽高度の変化に伴い夏半球側 
 に位置し赤道を挟み約15度の緯度幅でほぼ赤道対称な南北移動を示して 
 いる. 
  
  一方,本研究による熱帯降雨観測衛星(TRMM)データの解析は,同じ陸面で 
 あっても降水帯の南北移動はアメリカ大陸とアフリカ大陸でかなり異なってい 
 ることを示した.そのため,陸面の降水帯は太陽高度の変化に伴うとした 
 Mitchell and Wallaceによる説明ではまだ十分とは言えない.そこで本研究 
 では,大気再解析データと大気大循環モデルコントロールランの結果を用い, 
 特に南アメリカ大陸における降水帯の特徴的な南北移動をもたらす要因につ 
 いて考察する. 
  
  
  

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連絡先

豊田 威信 @北海道大学低温科学研究所
寒冷海洋圏科学部門 大気海洋相互作用分野
mail-to:toyota@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7431