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第 156 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 4月 27日(木) 午前 09:30
場 所:環境科学院 2階 講堂
発表者:田村 岳史 (極域大気海洋学講座 D3)
題 目:Estimation of thin sea-ice thickness from NOAA AVHRR data in a polynya off the Wilkes Land coast, East Antarctica(東南極沿岸ポリニヤにおける衛星赤外データによる海氷厚の推定)
発表者:久保川 厚 (地球圏科学部門 大気海洋物理学分野 教授)
題 目:2層QG矩形海洋モデルにおける西岸境界流の離岸と東向ジェットの形成
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Estimation of thin sea-ice thickness from NOAA AVHRR data in a polynya off the Wilkes Land coast, East Antarctica(東南極沿岸ポリニヤにおける衛星赤外データによる海氷厚の推定) (田村 岳史) 発表要旨 :
Antarctic coastal polynyas are major areas of intense ocean-atmosphere heat and moisture flux, and associated high sea-ice production and dense-water formation. Their accurate detection, including an estimate of thin ice thickness, is therefore very important. In this study, we apply a technique originally developed in the Arctic to an estimation of sea-ice thickness using NOAA AVHRR data and meteorological data in the Vincennes Bay polynya off Wilkes Land, East Antarctica. The method is based upon the heat-flux calculation using sea-ice surface temperature estimates from the satellite thermal-infrared data combined with global objective analysis (i.e., ECMWF) data. The validity of this method is assessed by comparing results with independent ice-surface temperature and ice-thickness data obtained during an Australian-led research cruise to the region in 2003. In thin-ice (polynya) regions, ice thicknesses estimated by the heat-flux calculation using AVHRR and ECMWF data show reasonable agreement with those estimated by a) applying the heat-flux calculation to in-situ radiation thermometer and meteorological data and b) in-situ observations. The standard deviation of the difference between the AVHRR-derived and in-situ data is about 0.02 m. Comparison of the AVHRR ice-thickness retrievals with coincident satellite passive-microwave polarization ratio data confirms the potential of the latter as a means of deriving maps of thin sea-ice thickness on the wider scale, uninterrupted by darkness and cloud cover. (和訳) 南極沿岸ポリニヤは大気海洋間熱交換が盛んな領域で、高い 海氷生産・高密度水形成域である。よって、ポリニヤ域の検出および そこでの海氷厚を見積もることは重要である。本研究では、北極用に 開発されていたAVHRRデータから氷厚を求める方法を、東南極 ウィルクスランド沖のヴィンセンネス湾ポリニヤに適用した。この方法は、 衛星赤外データから見積もられる海氷表面温度と客観解析データを 組み合わせた熱収支計算に基づいている。2003年に行われた オーストラリア主催の国際海氷観測航海に参加して取得した 海氷表面温度・氷厚データと比較することによって、この方法の 有効性を確かめた。ポリニヤ域において、AVHRRとECMWFデータから 熱収支計算によって見積もられた氷厚は、a)熱収支計算を現場の 放射温度計・気象データに適用して見積もった氷厚および、 b)直接現場観測データの氷厚とよく一致した。AVHRRデータから 得られる氷厚と現場観測データから得られる氷厚の差の標準偏差は 約0.02mであった。また、このAVHRRデータから得られる氷厚との 比較によって、雲や夜の影響を受けないマイクロ波データを薄氷厚の 見積りに使用できることが示唆された。 *沿岸ポリニヤとは 潜熱ポリニヤとも呼ばれ、極域において沿岸海洋域を中心に 形成される。結氷期であるにもかかわらず、主に沖向きの風や 海流によって海氷が運び去られることが原因で出現し維持される 疎氷域。厳しい寒さのため、海氷が運び出された領域はすぐに結氷し、 そのほとんどは厚さ5〜30cmの薄い氷で覆われている。ここでの 大気海洋間熱収支は海氷厚に大きく依存する。
2層QG矩形海洋モデルにおける西岸境界流の離岸と東向ジェットの形成 (久保川 厚) 発表要旨 :
黒潮やGulf Streamのような西岸境界流は線形論により予想される循環境界より 低緯度で離岸し、そのまま、強い続流として東方に流れる。かつて再現に苦しん だこの構造も、近年の現実的な高分解能数値シミュレーションではきれいに現 れるようになった。しかし、何故そうなるのかが明らかになったというわけで はない。 最近、Nakano and Tsujino (2006: 投稿中)は、西岸境界が子午線に沿う場合、 所謂「四角い海」でも、西岸境界流は循環境界よりもかなり低緯度側(上流側) で離岸し、強固な東向きの続流jetを形成することを高分解能OGCMで示した。 No-slip条件を課した場合には矩形海洋モデルにおいても西岸境界流の離岸が 循環境界より上流側で起きうるということ自体は、Haidvogel et al. (1992) の3層準地衡流(QG)モデルを用いた研究で示されており、また、Berloff等の一 連の研究(例えば、Berloff 2004)にも東向jetは見られる。しかし、現時点で は、その力学も、その構造のパラメータ依存性も十分に調べられているとは言 えない。そこで、発表者は非線形海洋循環を扱う上での最も簡単な系である2 層準地衡流矩形海洋モデルを用い、このような構造のパラメータ依存性、並び に、その依存性を元にその力学を考えようとしている。今のところまだ十分な 力学議論には到達していないので、循環構造のパラメータ依存性に関する実験 結果を中心に紹介する。 モデルは、北側に亜寒帯(低圧性)循環、南側に亜熱帯(高圧性)循環を形成する 南北反対称な風応力で駆動する。実験の結果、現実的と思われるパラメータレ ンジで、ダブルフロントの解(循環境界から離れたところで離岸し、南北2本の 東向ジェットを形成)が出現することが示された。主要なパラメータは、粘性 境界層幅および慣性境界層幅の変形半径に対する比であり、粘性境界層幅が狭 く、慣性境界層幅が広い領域に、シングルフロントの解(循環境界に沿う東向 ジェット)が存在し、ダブルフロントとシングルフロントの解の境界近くには 初期値に依存する多重(準)平衡領域が存在する。また、ダブルフロント解の離 岸緯度は、ほぼ風のみに依存し、他のパラメータへの依存性は見られなかった。
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