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第 148 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 10月 20日(木) 午前 09:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:渡部 雅浩 (地球圏科学部門 大気海洋物理学分野 助教授)
題 目:線型大気定常応答の加速反復解法とその応用

発表者:青木 茂 (寒冷海洋圏科学部門 大気海洋相互作用 助教授)
題 目:南大洋インド洋セクターにおける亜南極モード水と南極底層水の変質過程に関する考察

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線型大気定常応答の加速反復解法とその応用 (渡部 雅浩 ) 発表要旨 :

  
 大気大循環モデル(AGCM)と同じ球面のプリミティブ方程式系に基づく 
 接線型モデル(linear baroclinic model, 以下LBM)は,数値予報に 
 おいては初期摂動の作成に用いられる一方,大規模循環変動の力学 
 過程を調べるのにも非常に有益であることが知られている.その応用 
 範囲は幅広いが,最も単純かつ理解が容易なものとして,ある基本場の 
 もとで外部強制の摂動に対する大気定常応答を求める診断が挙げられる. 
 例えば,基本場を現実の気候平均場で定義し,大気の摂動を観測される 
 循環場の時間平均(時間変化項が小さい月平均から季節平均)偏差と見なす 
 ことで,大気長周期変動の生成・維持機構に関する力学的知見を与えてくれる. 
  
 理想的な定常ロスビー波の振る舞いならばいざ知らず,観測された長周期 
 偏差の生成・維持過程においては,偏差と気候平均場の定在波の間の 
 エネルギー授受が重要であることは多くの研究から明らかになっている. 
 実際,AGCMの気候値のまわりで線型化してAGCMから得られる強制項を 
 与えたLBMは,AGCMにおける大気長周期変動を驚くほどよく再現できるが, 
 その再現性は気候値の帯状平均で基本場を置き換えるとかなりの部分失われる. 
 定常応答問題を解くには,線型力学演算子逆行列を直接法で計算するのが 
 普通であるが,このとき,基本場が東西一様であるか否かはその実際上の 
 困難さに大きな違いを生じる.前者では,各東西波数成分ごとの小さな 
 行列を解けばよいのに対し,後者では前述の偏差・気候値間の波−波結合が 
 あるために,巨大な行列全体を扱う必要がある.従って,ほとんどの研究 
 ではやむを得ず低解像度のLBMを用いるか,時間積分で近似解を求めてきた. 
 大規模疎行列の反復解法は数多くあろうが,ここでは,この問題を解決する 
 ための大気モデルに特化した加速反復解法(AIMと呼ぶ)を提案する. 
  

南大洋インド洋セクターにおける亜南極モード水と南極底層水の変質過程に関する考察 (青木 茂) 発表要旨 :

  
 南大洋は、亜南極モード水(SAMW)や南極中層水、南極底層水(AABW)の形成・輸送 
 を通して、世界の大洋における子午面循環に重要な役割を果たしている。日本などが 
 継続して実施してきた海洋観測により、SAMWやALBW(AABWのうちのインド洋区おける 
 モード)の水塊特性が数十年規模で変化していることが明らかになってきた。しかし 
 ながら、南大洋における現場観測や水塊形成に関する研究はまだまだ少なく、このよ 
 うな水塊特性の経時変化およびその原因についてはよく理解されていない。本報告で 
 は、そうした水塊形成過程に関するプロセス・スタディの一環として、I)亜南極フロ 
 ント(SAF)における小規模擾乱の存在とそれがSAMWの形成に与える影響、 II)ALBW 
 の輸送時における海底境界層付近における構造の空間変化、について近年行った観測 
 に基づき考察した結果を述べる。 
  

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連絡先

水田 元太 @北海道大学地球環境科学研究院
地球圏科学部門 大気海洋物理学分野
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357