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第 146 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 5月 19日(木) 午前 09:30
場 所:環境科学院 2階 講堂

発表者:嶋田 陽一 (大循環力学講座 D3)
題 目:東樺太海流流量の年平均値に及ぼす季節変化の影響:シンプルモデル

発表者:青山 道夫 (気象研究所地球化学研究部主任研究官)
題 目:栄養塩標準物質を用いた栄養塩時空間変動の研究―BEAGLE2003航海で分かったこと分からなかったこと

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東樺太海流流量の年平均値に及ぼす季節変化の影響:シンプルモデル (嶋田 陽一) 発表要旨 :

  
 オホーツク海では反時計回りの循環が卓越し,その西岸に東樺太海流(ESC)が 
 あることが知られている.このESCは風応力カールによって駆動される西岸境 
 界流(WBC)であると考えられている(Ohshima et al. 2004). 
  
 最近の観測は,東樺太海流流量の年平均値がスベルドラップ流量の年平均値よ 
 り著しく大きいことを示唆する.この理由を説明するために西斜面があるシン 
 プルモデルを用いて西岸境界流流量を調べた.この流量は西岸から沖で順圧流 
 速がゼロになる位置まで積分した流量と定義した.このモデルを風応力の季節 
 変化によって駆動させると,観測と同様に西岸境界流流量の年平均値がスベル 
 ドラップ流量の年平均値より大きくなる.10月から3月の南下流量はそのとき 
 どきのスベルドラップ流量にほぼ等しい.一方,4月から9月の南下流量は緩や 
 かに減少する.順圧ロスビー波が西斜面上に侵入できないので,夏季の南下流 
 量はスベルドラップ流量の年平均値に近い値をもつ.この夏季の南下流量によっ 
 て南下流量の年平均値は増加する.オホーツク海のスベルドラップ流量の見積 
 りで不明確な部分はあるが,このモデルの南下流量の季節変化は観測結果と定 
 性的に似ている. 
  
 また観測おいて,冬季から夏季にかけてESC流量の変化はスベルドラップ流量 
 の変化よりも著しく緩やかに減少することを示唆する(Ohshima et al. 2004). 
 この緩やかな減少は数値シミュレーション(清水 D論),西斜面をもつシンプル 
 モデル(嶋田 2004)でも確認できる.このESC流量の緩やかな減少は,上層捕捉 
 波(例えば,Suginohara 1981)だけでは説明できない.そこで本研究では, 
 ESC流量の緩やかな減少を解釈するために線形理論を用いて調べる.本研究で 
 は,2層の線形準地衡流渦度方程式を用いる(Pedlosky(1987)参照).線形理論 
 で求めた西岸境界流流量の季節変化は,冬季から夏季にかけて西岸境界流 
 流量がスベルドラップ流量よりも緩やかに減少することを示した.この緩やか 
 な減少は西斜面上で上層に捕捉されている.この減少の伝播速度は,傾圧ロス 
 ビー長波の位相速度よりも著しく速い.鉛直モード展開をすると,この伝播速 
 度は,主に水平渦粘性によって速められることがわかった.この結果は水平渦 
 粘性係数を変えた数値実験からも示唆される. 
  

栄養塩標準物質を用いた栄養塩時空間変動の研究―BEAGLE2003航海で分かったこと分からなかったこと (青山 道夫) 発表要旨 :

  
 海水中栄養塩の時空間変動の研究を行うには、栄養塩分析のtracerbilityを確 
 保することが重要であり、そのためには海水と同じマトリックスを持つ栄養塩 
 標準溶液(RMNS)が必要である。演者らはRMNSを組織だって供給するための努 
 力を、1990年代から続けてきた。そして、BEAGLE2003みらい世界一周航海にお 
 いては1900本のRMNSをすべての測点で使用し、現実の海水試料の栄養塩濃度の 
 個々の値について分析の不確かさをつけたデータセットを作成した。すなわち 
 栄養塩変動の大きさを定量的に評価できる世界で最初のデータセットが作成で 
 きた。 
  
 講演においては、得られたBEAGLE2003データと過去データ(1990年代WOCEデー 
 タおよびOSD01からの切り出し)との比較結果を紹介する。300dbarまでの積算 
 の比較では、栄養塩で50%以上の増減が見られ、その水平スケールは中規模 
 渦の数百km程度であった。積算する深度を深くするに従って海盆スケールの 
 変動が見出されている。地球を一周する測線に沿う南半球亜熱帯循環域におい 
 て0-3000dbarまでの積算平均でみた変動の主な特徴は, 
 1)水温と塩分:密度補償的であるが塩分減少でわずかに軽くなっている。 
 2)硝酸とリン酸:硝酸の全球積算は変わらずに、リン酸が減少することによ 
 りN:P比が大きくなる方向にある。 
 3)水温と硝酸:両者の変動は海洋中での水温低下に伴って硝酸塩が増加する 
 という平均的な関係に。全球平均では変動なし。 
 というものである。また、1000dbarまでの積算平均では全炭酸の1年あたり 
 1μmol kg-1の増加が見える。太平洋と大西洋の西部では硝酸塩とリン酸塩の 
 減少傾向がすくなくとも1980年代から継続している。減少傾向は相対的にリン 
 酸塩の減少が硝酸塩より大きい。栄養塩の減少から期待される酸素量の増加は 
 見られないので相対的に酸素量が減少しているといえる。 
  
 全球規模の海洋調査研究における栄養塩測定においては、RMNSを使用するとと 
 もに、コミュニテイとして栄養塩測定の国際スケールの確立を確立し、明示的 
 にtracerbilityを確保していくことが栄養塩時空間変動の研究にとって必須で 
 あると演者は考える。 
  

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連絡先

水田 元太 @北海道大学地球環境科学研究院
地球圏科学部門 大気海洋物理学分野
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357