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第 145 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 4月 28日(木) 午前 09:30
場 所:環境科学院 2階 講堂
発表者:大竹 秀明 (極域大気海洋学講座 D3)
題 目:2004/2005年冬季の北海道北部日本海沿岸における気温の側線観測
発表者:豊田 威信 (低温科学研究所 助手)
題 目:オホーツク海南部の海氷の表面形状観測
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2004/2005年冬季の北海道北部日本海沿岸における気温の側線観測 (大竹 秀明) 発表要旨 :
北海道西岸沖の日本海上では寒気の吹き出しに伴い筋状雲が発生し、海上で発 達した後、北海道西部に多量の降雪をもたらすことが知られている。風上山地 に注目した数値実験を行なうと、風上山地により北寄りに変化した気流が日本 海北部で大きな収束域を形成することが示唆され、筋状雲が生成される要因に なっているものと推測される。 しかし、日本海上における筋状雲の観測例は少ない。一方、筋状雲周辺の大気 環境を知ることは筋雲の発達過程を理解する上で重要でり、気象学的に非常に 興味深い。そこで本研究では、北海道北部に27個の温湿度計をほぼ同間隔、直 線上に設置した気温の側線観測を一冬行なった。 筋状雲のパターンを大きく別けると(1)村松バンド、(2)収束雲、(3)寒気の吹 き出しの3つに別けることができる。村松バンドの事例ではバンドの南北に約 4℃/200kmの気温勾配が見られ、特にバンドを境界に気温が急変している事が わかった。これはバンドに対し南北で気流の性質が異なる事を示唆する。また、 収束雲の事例では夜間に-20℃の低温状態になっており、収束雲の南下に対応 して冷気フロントの南下が確認された。 次に、2005年2月11日の村松バンド気温以外の気象要素とバンドの構造に注目 して解析を行なった。同日は巡視船「そうや」が北海道西岸を航行し、バンド の直下を通過した事例である。バンドを通過する直前(同日17時)に相対湿度の ピークが見られ、高湿度域はバンドの直下ではなく南に位置していた。また、 同時刻の石狩(美登位)に設置されているXバンドドップラーレーダーの解析を 行なうと同バンドの北側にはTモード(※)が見られた。バンドの北側の下層で は北北西、10m/s程度の風が吹いていた。この結果、村松バンドは単純なロー ル状対流では説明されず、バンドに対して南北非対称な気流構造を持つことが 示唆される。 註) Tモード: 主雲バンドとほぼ直交する方向に生成する小スケールの雲バンド
オホーツク海南部の海氷の表面形状観測 (豊田 威信) 発表要旨 :
オホーツク海南部の海氷域で巡視船「そうや」を用いて最近取り組んでいる 氷盤形状観測について紹介する。 海氷の形成過程、大気との熱交換、海氷体積の推定を行うにあたっては、氷 厚分布は大変重要なパラメータである。氷厚1m以下の比較的薄い氷に関して はビデオ観測などによりある程度明らかになってきたものの、厚い海氷に関し てはまだよく分かっていない部分が多い。そこで表面形状(sail height)分 布を知ることによって、間接的に氷厚分布を推測できないかと考え、2003年以 降、超音波距離計を用いた氷盤の表面形状分布の観測に取り組んでいる。この 測定方法の場合、如何にして得られたデータから船体の運動の影響を除去する かがポイントとなる。得られたデータから、比較的天候が良く同じような氷況 が5分間以上続いている事例24例(2003年)、27例(2005年)を抽出し、 low-pass filterを用いて船体の運動を除去して解析を行った。その結果、各 事例のsail heightの平均値はビデオ計測から得られた氷厚と比較的良い相関 が得られ、1)全体的には頻度分布はおおよそ指数関数的に減少すること、2) 氷盤の小さい方ほど凹凸が激しい傾向があること、3)氷厚1m以上の厚い氷 も1割程度存在すること、4)表面温度との対応も若干見られること、などが 分かった。 一方、氷盤の形状分布を知るもう一つの手段として、1997年以降、目視観測 を継続している。航海期間中、原則として毎正時にブリッジから半径約1km以 内の海域内の海氷について密接度、氷盤の厚さと大きさ、表面の形状分布の観 測を目視で行うものである。観測の手法は基本的には南極域の海氷を対象にし て提唱されたASPeCtのコードに従ったものであり、定性的ではあるが面的な氷 況を把握できる利点がある。変形していない氷盤の平均氷厚はビデオ計測結果 とほぼ良い一致が得られ、ある程度の信頼性が確かめられたため、これまでに 得られた9年間のデータの統計を取ってみたところ、リッジ部の面積は全体の 約4分の1であるが体積はおよそ7割に達しておおよそ南極域における観測結果 に匹敵すること、氷厚にはおよそ10年程度の周期性が見られることなどが分かっ た。 以上の観測結果から、オホーツク海南部の海氷域においては南極域と同様、 海氷の発達においてはやはりお互いに乗り重なる過程が重要であり、氷厚の厚 いリッジ部の果たす役割が大きいことが示唆されるが、絶対値を議論するには 更なる観測・解析が必要と考えられる。
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