****************************************************************************************************************

第 144 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 4月 21日(木) 午前 09:30
場 所:環境科学院 2階 講堂

発表者:中村知裕 (環オホーツク観測研究センター講師)
題 目:千島列島域の潮汐過程とそのオホーツク海・北太平洋への影響

発表者:小野 純 (極域大気海洋学講座 D3 )
題 目:カラフト東岸沖における潮流特性と日周潮陸棚波

****************************************************************************************************************

千島列島域の潮汐過程とそのオホーツク海・北太平洋への影響 (中村知裕) 発表要旨 :

  
  今回は自己紹介を兼ねて、千島列島域の潮汐過程とそのオホーツク海・ 
 北太平洋へ の影響について、これまで行った一連の研究の結果を紹介し 
 たい。 
  
  オホーツク海では、冬季の海氷生成に伴い中層まで水が沈み込む。これ 
 を核として 形成されたオホーツク海特有の低塩分・低渦位の海水は、北 
 太平洋へ流出し、北太平 洋中層を換気・低塩化する。こうしたオホーツ 
 ク海−北太平洋間のやりとりを介する 千島列島では、潮流が非常に強く、 
 結果として潮汐過程は両海盆に重要な影響を与え 得る。そこで、潮汐過 
 程とその影響を数値モデルを用いて調べた。 
  
  千島列島では、外洋から入射した日周期潮汐波が地形性捕捉波を生成 
 し、捕捉波が 島を巡る間に増幅されることで、強い日周潮流が生じる。 
 この強い潮流は、捕捉波を 考慮した潮汐平均流形成理論などのメカニズ 
 ムを通して、有意な大きさの海水交換 (5Sv以上)を引き起こしうる。ま 
 た、この強い日周潮流は、海峡部のリッジ(島と島 の間の浅くなった 
 所)を越える際に大振幅の内部重力波を生成する。波の砕波に伴う 鉛直 
 混合は非常に大きく、かつ、海面から中層にまで及ぶことから、潮汐に伴 
 う鉛直 混合(以下、潮汐混合)は北太平洋中層の水塊形成に影響するこ 
 とが示唆される。な お、上述の日周潮起源の内部重力波は、いわゆる内 
 部潮汐(潮汐周期の内部重力波) ではなく非定常風下波であった。内部 
 潮汐は地形性捕捉波となる。潮汐混合によって 変質された海水は、列島 
 沿いに潮汐フロントを形成し、フロントにおける傾圧渦の形 成・放出に 
 伴ってオホーツク海・北太平洋に運ばれる。 
  
  こうした潮汐過程のうち、潮汐混合がオホーツク海・北太平洋に与える 
 影響を調べ た。千島列島の潮汐混合は、中層から表層への塩分供給に 
 よって、冬季の沈み込みを 強化した。この沈み込み強化と直接的混合の 
 効果が合わさって、オホーツク海中層は 低塩・低温・低渦位化される。 
 オホーツク海水の変質により生じた北太平洋への渦位 フラックスは、親 
 潮の強化とそれに伴う亜熱帯・亜寒帯循環の境界を横切る輸送を引 き起 
 こし、循環内部の流速場も変化させ、北太平洋の中層循環に影響する。こ 
 れらの 過程を通して、千島列島の潮汐混合は北太平洋中層の換気・低塩 
 化を促進した。こう した中層循環の応答には、ケルビン波および背景流 
 のため東に移動するロスビー長波 が重要で、両者を考慮することで中層 
 の換気の理論モデルを構築できる。 
  
  以上の結果は、海盆スケールの海水交換や循環に短周期の潮汐が重要な 
 役割を果た す点で面白いと同時に、陸棚や縁辺海が外洋に与える影響と 
 その力学解明に貢献する と期待される。 
  

カラフト東岸沖における潮流特性と日周潮陸棚波 (小野 純) 発表要旨 :

  
 オホーツク海のカラフト東岸沖は,日周潮流が強い海域であることが順圧の潮 
 汐数値シミュレーションによって示されている(Kowalik and Polyakov,1998). 
 この海域は,北太平洋中層水の起源水の1つと考えられている高密度陸棚水や 
 海氷の輸送経路となっていることから,これらの変質や輸送過程に潮流が与え 
 る影響を評価することは重要である.しかしながら,長期間にわたって直接こ 
 の海域における潮流を計測した例は少なく,潮流場については十分にわかって 
 いない.日露米共同による戦略的基礎研究「オホーツク海氷」では,カラフト 
 東岸沖において,1998年から2年間にわたって長期係留観測を行なった.本研 
 究では,そこで得られた潮流特性と日周潮陸棚波の理論解との比較について報 
 告する. 
  
 陸棚上では,日周潮流が卓越し,K1とO1の潮流楕円は,ほぼ等深線に沿って伸 
 長した細長い形をしており,時計回りの回転をしていた.長軸の振幅は 
 0.11-0.34 m/s に達し,鉛直構造は順圧的であった.一方,陸棚斜面やその沖 
 では,潮流楕円は急激に小さくなっていた.また,K1とO1の位相速度を見積も 
 ると,55-53°Nの間では3.3と3.8 m/s,53-49.5°Nの間では8.6と6.5 m/s で, 
 岸を右に見る方向に伝播していることが示された.これらの特徴は,日周潮陸 
 棚波が励起されていることを示すものである. 
  
 そこで,成層を考慮した陸棚波の理論解と比較したところ,55-53°Nの陸棚上 
 で観測された潮流楕円の形,回転方向および位相速度は,第1モードの日周潮 
 陸棚波のそれらと良い一致を示した.一方,日周潮陸棚波の水位への寄与は,〜 
 1/4程度で小さかった.また,観測で見積もられたK1とO1の位相速度は,冬に 
 0.1-0.3 m/s 速くなることが示された.これは,日周潮陸棚波に対する密度成 
 層の影響は小さいことから,冬に流速最大となる東カラフト海流の移流による 
 ものだと示唆される.一方,分散関係から49.5°Nでは日周潮陸棚波が存在し 
 得ない地形となっており,ここでの潮流場が何によるのかは,今後,考察を要 
 する. 
  
 尚,発表当日は,潮汐周期に注目した水温場の解析結果についても報告する. 
  

-----
連絡先

水田 元太 @北海道大学地球環境科学研究院
地球圏科学部門 大気海洋物理学分野
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357