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第 142 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時: 1月 13日(木) 午前 9:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:橋岡豪人 (気候モデリング講座)
題 目:日本近海の生態系と物質循環

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日本近海の生態系と物質循環 (橋岡豪人) 発表要旨 :

    
  これまでに、海洋生態系や物質循環の理解を目的に、三次元海洋生態系モデ 
 ルを用いた研究が行われている。しかし、組み込まれていた生態系モデルは、 
 生物のグループ構成を表現できないモデルが主であった。本研究では、プラン 
 クトンのグループ構成とそれに伴う窒素やケイ素、炭素の循環の違いを陽に表 
 現した三次元生態系モデルを開発し日本近海に適用した。このモデルを用いて 
 以下の3つの事柄について考察を行った。 
  
  (1)植物プランクトンの優占グループは、季節的・海域的にどのように変化 
 するのか? また、優占グループの決定には、生態系をとりまく環境(栄養塩、 
 光、温度など)と生態系内の相互作用(動物プランクトンによる捕食など)の 
 どちらが重要なのか? (2) 優占グループの違いが、物質循環の海域による違 
 いにどう寄与するのか? また、物質循環には、物理環境の変化と生態系の変 
 化のどちらが重要なのか? 本研究では特に、海洋の二酸化炭素の取り込みを 
 考える上で重要な量であるrain比(CaCO3の輸出生産に対するPOCの輸出生産の 
 比で定義)の海域による違いが生じるメカニズムに注目した。(3)上記のよう 
 な海洋生態系と物質循環の関係が、地球温暖化に伴いどのように変化するのか? 
  
  モデルは現在の日本近海における生態系の季節変化や水平的な分布を良く再 
 現しており、解析により以下のことが明らかになった。(1) 植物プランクトン 
 の優占グループは、亜熱帯域のような貧栄養海域においては、光合成の栄養塩 
 依存性の違いにより硝酸塩濃度により決定され、栄養塩に富む亜寒帯域では、 
 動物プランクトンの補食嗜好性により決定されていた。 (2) rain比の海域に 
 よる違いは、生態系の優占グループの違いによりCaCO3とPOCの生成の割合が海 
 域により違う効果と、両者の分解の割合の違いの効果が同程度寄与し決定され 
 ていた。(3)地球温暖化により、年平均の海面水温が上昇し、冬季混合層は亜 
 寒帯と亜熱帯域の移行域で約200m浅くなった。その結果、移行域では、成層の 
 強化により深層からの栄養塩供給が減少し、21世紀末に基礎生産や珪藻類の優 
 占率がわずかに減少した。また、プランクトングループの遷移と温度上昇の効 
 果によりrain比は増加した。 
  

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連絡先

川島 正行 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻 物理系
mail-to:kawasima@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-6885