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第 138 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ
日 時: 10月 28日(木) 午前 9:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂
発表者:近本 喜光 (大循環力学講座 )
題 目:ENSOに対する熱帯大西洋大気海洋系の応答
発表者:大島 和裕 (気候モデリング講座 )
題 目:極域における水蒸気輸送について
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ENSOに対する熱帯大西洋大気海洋系の応答 (近本 喜光) 発表要旨 :
熱帯大西洋における海面水温(SST)変動は熱帯域だけでなく中・高緯度の大気 海洋系にまで影響を及ぼすことが知られており、大西洋における気候システム を理解する上でも大変重要である。この熱帯大西洋におけるSST変動を引き起 こすひとつの要因としてENSOの影響が指摘されている。北半球冬季にエルニー ニョ(ラニーニャ)が発生すると、その後の春季に熱帯大西洋の北部で正(負)の SST偏差が観測される。これまでの研究では、この北部熱帯大西洋におけるSST 偏差の形成に対して風速の変化に伴う潜熱フラックス偏差が主要な要因である ことを示唆してきた。これに対し、最近のモデル実験では風速偏差だけでなく、 大気海洋間における比湿差偏差も潜熱フラックス偏差に寄与することを示唆し ている。しかしながら、これらのモデル実験では大気海洋間における比湿差を 気温差から見積もっているため、比湿差偏差による寄与を間接的にしか評価し ておらず、データ解析による検証が必要である。 本研究では潜熱フラックスの各成分を観測データから見積もり、ENSOが熱帯大 西洋の大気海洋系に及ぼす影響について検証した。北部熱帯大西洋における SST偏差の形成に対して、特にカリブ海域で顕著な大気海洋間における比湿差 偏差の寄与が確認できた。この比湿差偏差は主に大気の比湿偏差によってもた らされており、ENSOに伴う大気循環場の変化によってカリブ海上では気候値よ りも湿潤な大気状態が形成されている。これまで見てきたように、ENSOに伴う 熱帯大西洋のSST偏差は北半球側で顕著に現れるものの、南半球側では振幅が 小さいといった、赤道を挟んで南北非対称の応答を示す。このときの風速偏差 は赤道を挟んで南北反対称の構造を示しており、SST偏差のこのような南北非 対称構造は大気海洋間における比湿差偏差の寄与を考慮しないと説明できない。 熱帯域における研究の多くは、潜熱フラックス偏差に対して風速偏差のみを考 える傾向にあったものの、本研究の結果は大気海洋間における比湿差偏差も重 要な役割を演じていることを示唆している。
極域における水蒸気輸送について (大島 和裕) 発表要旨 :
大気を通して極域へ流入する淡水フラックス(降水量と蒸発量の差:P-E)は, 積雪,海氷,氷床に影響を与えるため,極域の水循環にとって重要な要素であ る。そしてこのP-Eについて知るには水蒸気輸送の解析が有効な手段であり, 水蒸気輸送について調べることは重要である。極域のP-Eに関しては先行研究 によってある程度わかっている(Bromwich et al., 2000, Yamazaki, 1992等)。 しかし,P-Eの季節変化の要因が,水蒸気量と擾乱活動の季節性のどちらに起 因するか等の明確な解析はなされていない。また極域の大気循環は環状モード (Annular Mode; AM)と関連しており,水蒸気輸送についても,またAMとの関連 があることがわかっている(Rogers et al., 2001, Boer et al., 2001)。しか しこれらの研究は,特定の緯度帯や東西平均について解析が主である。そこで 本研究では,北極海および南極大陸上におけるP-Eの季節変化の要因とAMに伴っ た水蒸気輸送の水平パターンとその季節性について調べた。 北極海と南極大陸上でのP-Eの季節変化を定常成分と非定常成分の水蒸気フラッ クス(Moisture Flux; MF)の2つに分けて見積もった。この結果,両極域で擾乱 による水蒸気輸送(非定常フラックス)が支配的であることがわかった。北極海 上のP-Eは,大きさ,季節変化ともに,非定常フラックスの寄与が大きく,南 極大陸上においては定常フラックスの影響も無視できずに,P-Eの大きさは非 定常フラックスにより決まり,その季節変化は非定常フラックスと定常フラッ クスの両方が寄与している。さらに非定常フラックスの季節変化の要因につい ては,北極域では水蒸気量,南極域では擾乱活動の季節性の影響が大きいこと が示唆されたが,いずれの影響も地域性があると考えられる。 環状モードと水蒸気輸送の関連については以下のことがわかった。北極振動が 正のときには,MFが大西洋とユーラシアの中部から南極海への極向きの偏差と なる結果として,北極域への水蒸気の流入が大きくなる。一方,南極振動が正 のとき,MFは南極海上で東向き,ベリングスハウゼン海およびアムンゼン海上 で低気圧循環(南極半島付近で極向きMFが大)の偏差となる。以上のAMに伴った MFの偏差は,AMに伴った対流圏下層の風の偏差に対応している。
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