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第 125 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ
日 時: 10月 23日(木) 午前 9:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂
発表者:谷口 博 (気候モデリング講座 D3)
題 目:赤道域シアー流中で発生する不安定モードの物理的解釈
発表者:豊田 威信 (極域大気海洋学講座 助手)
題 目:海氷の酸素安定同位体分別係数について
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赤道域シアー流中で発生する不安定モードの物理的解釈 (谷口 博) 発表要旨 :
冬期赤道域上部成層圏では, パンケーキ構造と呼ばれる東西非一様な温度擾乱 が存在し, 慣性不安定であると説明されてきた(Hitchman et al.,1987 ; Hayashi et al.,1998 ; Smith and Riese,1999, etc.). しかし, この東西非 一様擾乱を東西一様ないわゆる慣性不安定(Dunkerton,1981; Stevens,1983)と 認識して良いかどうかは, 子細に検討されてこなかった. 本研究の目的は, こ れまで慣性不安定だと言われてきた東西非一様モードと東西一様モードが物理 的に性質の異なるモードであるかどうかを明らかにすることである. はじめに, 定常な線形シアー流を基本場として, 線形化した無次元の赤道β平 面浅水方程式系の固有値問題を解き, 無次元パラメータ E (以降, Lamb パラ メータと呼ぶ; -2 ≦ logE ≦ 5)に対するモードの構造とその方程式系の各項 のバランスを調べた. その結果, Lamb パラメータの値により最大不安定モー ドの水平構造は, 3 つのタイプに分類できることがわかった. 次に, 得られた不安定モードのそれぞれが物理的に性質の異なるモードである かどうかを中立波の共鳴(Cairns,1979; Satomura,1981; Hayashi and Young,1987; Iga,1993,1999, etc.)という観点から検討した. その結果は, 以 下の通りである: 1. 安定な logE < -1 の領域では, Cairns(1979)の理論で想像されるように, 波数−位相速度(k-Cr)平面上で正負の擬運動量を持つ中立モードの共鳴は 見られない. 2. 東西非一様モードのみが存在する -1 < logE < 1.2 の領域では, 正負の擬 運動量を持つ赤道ケルビンモードと連続モードの共鳴で不安定(臨界層不安 定, Iga,1999a)が発生することが明らかになった. このことから, Boyd and Christidis(1982) や Natarov and Boyd(2001) で未解明であった赤道 ケルビン波の不安定化は, 連続モードとの共鳴によってもたらされている と説明できる. 3. 東西一様ないわゆる慣性不安定モード(Stevens,1983)と東西非一様モード が共存する logE > 1.2 の領域では, 東西非一様モードを構成する分散曲 線の組が変わり, 少なくとも, 混合ロスビー重力波モードと赤道ケルビン モードとの共鳴で不安定が発生していることが明らかになった. 4. 波数−固有値実部(k-ωr)平面で分散曲線を描き, 東西一様な不安定モード の成因を調べると, 計算したすべての Lamb パラメータ領域で赤道ケルビ ンモードと連続モードの分散曲線群が交差することで不安定化しているこ とが確認された. 以上のことから, 3 つのタイプに分類される不安定モードのうち 2 つは, 同 じタイプの不安定モードであると解釈できる可能性がある. このことをさらに 明らかにするためには, 東西一様不安定モード, 東西非一様不安定モード共に 赤道ケルビンモードの共鳴相手であった連続モードの性質を調べる必要がある. なぜなら, k-Cr 平面, k-ωr 平面いずれに於いても, 赤道ロスビーモードの 分散曲線は見当たらず(取り出せず), シアーの無いいわゆる赤道波の理論 (Matsuno,1966; Lindzen,1967; Longuet-Higgins,1968)から予想すると, 連続 モ−ドのうちの幾つかは赤道ロスビーモードの特徴を持つように変質している 可能性があるからである.
海氷の酸素安定同位体分別係数について (豊田 威信) 発表要旨 :
一般に海水が凍る際、海氷は酸素安定同位体(18O)を少し余分に取り込むため、 同位体比(δ18O)が母海水に比べて増加することが知られている。具体的にどの程度 増加するか(分別の度合い)は、結氷環境に依存する。この分別の度合いは、酸素 安定同位体比を用いて海氷中に含まれる積雪の寄与や海氷成長履歴を評価する際に、 また、極域海洋において海氷生成に伴う深層水形成メカニズムを考察する際に重要 なパラメータである。しかしながら、定量的にはまだきちんと評価が行われていな いのが現状である。従来、純氷に対する室内実験から得られた値2.91‰ (Lehmann et al., 1991)などを参照して2.0〜2.7‰の値が多く用いられてきた。 豊田他(2002)はオホーツク海南部の海氷に対する積雪の寄与を評価する際に、統計 分布の特徴から1.76±0.20‰というやや低めの値を推定したが、この値の検証を行 なう必要がある。そこで、室内実験により実際に確かめてみることにした。現場の 海氷生成は様々な成長環境が考えられるが、まずは静穏な環境のもとで結氷速度を 変化させて海氷を生成する実験を行い、成長速度の違いに応じて分別の度合いが どのように変化するのかを検証した。 実験は室温がほぼ一定に保たれる低温実験室で行った。断熱材で囲われた 30cmx30cmx65cmのタンクを用意して深さ60cmまで海水を注入し、一定の室温のもと で厚さ約5cmまで成長させて得られた海氷のうち、ここでは短冊状構造を持つ深さ 2〜3.5cmの層に着目して有効分別係数(EFC:母海水との同位対比の差)を測定した。 室温は−5〜−20度の温度条件で6通り行い、EFCの海氷成長速度依存性を調べた。 解析の結果、海氷生成に伴う分別係数は海氷成長速度と良い相関があり、 EFC = -0.149r + 1.871(r:成長速度(mm/hr))の関係式が得られた。海氷の純氷 に関してはEFC = -0.253 r + 2.579と見積もられ、この関係式は、Eicken(1998)が Stagnant Boundary-Layer Diffusion Modelをもとに理論的に導出した式とパラメー タをうまく設定すれば比較的良く符合することが分かった。また、上の式から、熱力 学的に見積もられるオホーツク海南部の代表的な夜間海氷結氷速度(〜1mm/hr)では 見かけの分別係数は1.72と見積もられ、観測値の統計分布から見積もった推定値と比 較的良い一致が見られた。
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