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第 124 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時: 10月 9日(木) 午前 9:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:内本 圭亮 (大循環力学講座 D3)
題 目:順圧準地衡流β水路における地形に励起された形状抵抗

発表者:青木 茂 (極域大気海洋学講座 助教授)
題 目:南大洋における大規模海洋変動の観測

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順圧準地衡流β水路における地形に励起された形状抵抗 (内本 圭亮) 発表要旨 :

  
 南極大陸の周りは地球上で唯一大陸に遮られることなく地球を一周できる海域 
 である.この海域には南極周極流という流れが存在しているが,その力学の理 
 解は遅れている.正味の圧力勾配がないために海洋循環の基礎理論であるスベ 
 ルドラップ平衡が成り立たたないからである.流量がどのように決まっている 
 のかが問題であった.底が平らな条件で計算すると,流量は実際の流量よりも 
 ずっと大きな値になってしまい,流量を実際の値に近づけるには非常に大きな 
 摩擦を必要とする.最近20年くらいの間に行われた研究により,南極周極流の 
 流量決定には,Munk and Palmen (1954)が考えたように海底地形による形状抵 
 抗が重要であることが確認されている.しかし,形状抵抗と流速(流量)は直接 
 的には関係していないため,風を与えて平衡になったときにどのような流速に 
 なるのか分からない.そこで,非常に簡単な系で,形状抵抗によって定常流速 
 がどのような値になるのかを調べるのが本研究の目的である. 
 使用する系は,サイン型の底地形の順圧準地衡流β水路である.形状抵抗によ 
 る抵抗を調べたいので海底摩擦は無視し水平粘性を含む.水路の壁ではスリッ 
 プ条件を用い形状抵抗のみが帯状運動量バランスの抵抗となるようにした.簡 
 単のため風応力は一様(curl τ=0)とする. 
 まず改訂マルカート法を用いて系の定常解を求めた.水路の平均流速 U をパ 
 ラメータとして定常解を求めていくと,ある U の値を境にして解の構造が 
 大きく変化した.この「ある U の値」は海底の波形の振幅によって異なる 
 が,いずれも海底地形の波数よりも波数の大きい波の位相速度の大きさになっ 
 ていた.この U を境にして定常解の形状抵抗は大きく変化する.この U より 
 も小さい場合には定常解の形状抵抗は小さく,U よりも大きい場合には形状抵 
 抗は大きい. 
 次に静止流体に風(τ)を与えて数値実験を行った.τが大きすぎる場合は U 
 は無限に加速され,また τ がある程度小さいと平衡状態の U は線形解にし 
 たがって τを大きくするにつれて大きくなるが,その中間の大きさの τ の 
 場合には,τの大きさを変化させても平衡状態の U はあまり変化せず,マル 
 カート法で得られたある波の位相速度の大きさあたりになる. 
 この結果,形状抵抗のみが帯状抵抗である系においては,静止状態から加速し 
 た場合に取りうる平均流速(流量)は,海底地形の振幅と水平粘性でおおよそ決 
 まり,ある波の位相速度近傍になることが分かった. 
  

南大洋における大規模海洋変動の観測 (青木 茂) 発表要旨 :

  
 南大洋は、様々な時・空間スケールにおける顕著な変動の可能性が指摘されている大 
 洋であるが、領域が広大でありかつ航海自体が容易ではないため、現場観測はもっと 
 も不足している。1990年代になり、WOCEのもとで質・量ともに観測データの充実が図 
 られた。中層フロートによる面的観測も拡充されつつある。日本では低温研を中心と 
 して南大洋の観測研究を進めてきたが、日本南極観測のもとでの海上保安庁によるル 
 ーチン的な観測データも40年近く蓄積されており、世界的に見ても、中・長期的な海 
 洋変動を把握する上での貴重な資産となっている。私は、これらの観測資源に基づき 
 、主として現場観測の面から大規模海洋変動の実態把握を目指してきた。こうしたな 
 かから研究の端緒に着いた話題をいくつか紹介する。 
  
 ○季節内周期における海洋の南極振動 
 大気再解析データの研究から南極振動(あるいは南半球環状モード)の統計的な卓越 
 性が示されている。南極沿岸での水位観測の結果から、沿岸水位の季節内スケールで 
 一様に変動し、しかも南極振動指数の強弱と非常によく対応することを見出した。し 
 かし、年周期以上の時間スケールでは、データの品質や空間分布の制約といった問題 
 もあり、南極振動との対応については今のところ明確ではない。 
  
 ○インド洋区における亜表層水の暖水化傾向 
 日本南極観測の一環として1960年代から行われている海洋観測のデータと過去の各国 
 の観測データから、南極周極流インド洋区域の一部で、表層水温が上昇傾向にあるこ 
 とが分かった。またその傾向の空間的な特徴から海洋のフロントの南下が推測される。 
  
 ○インド洋区における底層水の変動 
 2001-2003年にかけて、インド洋区において日本による観測が相次いで行われてきた 
 。東経140度付近のアデリー・コーストおよびケルゲレン海台沖における観測を1990 
 年代中半のWOCE観測と比較した結果、ここ6-7年の間に底層水が低塩化している可能 
 性が示された。 
  

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連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻 物理系
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359