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第 121 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時: 5月 15日(木) 午前 9:30
場 所:地球環境科学研究科 2階講堂

発表者:近本 喜光 (大循環力学講座 D2)
題 目:El Nino および La Nina に対する大西洋大気海洋結合系の応答

発表者:栗田 直幸 (地球観測フロンティア研究システム)
題 目:シベリアにおける大陸水循環とそれに伴う降水の安定同位体比の応答

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El Nino および La Nina に対する大西洋大気海洋結合系の応答 (近本 喜光) 発表要旨 :

  
 冬季におけるEl NinoおよびLa Ninaの変動と春季における熱帯北大西洋の海面 
 水温変動との間には正の相関がある。過去の研究では、熱帯北大西洋における 
 海面水温偏差の形成に対しENSOに伴う潜熱フラックスの変動が重要であり、こ 
 の潜熱フラックスの成分として風速の変動が最も寄与することを示した。こ 
 の風速はPNAパターンやWalker循環といったENSO に伴って変動する大気循環場 
 によって形成されると考えられている。しかしながら、最近のモデル研究では 
 大気海洋間の比湿差の効果も熱帯北大西洋における海面水温偏差の形成に寄与 
 していることを示唆しており、ENSOに伴う熱帯域の対流圏気温の変化が熱帯域の比 
 湿差をコントロールするというメカニズム(TT-mechanisum)が提案された。ま 
 た、ENSOに伴う大気場の変動はEl Nino とLa Ninaで異なることも示唆されて 
 おり、ENSOをEl NinoとLa Ninaに分けて考える必要がある。そこで本研究では、 
 熱フラックスの各成分を見積もり、El NinoおよびLa Ninaが熱帯大西洋の大気 
 海洋系に及ぼす影響についてNCEP-NCAR再解析およびGISSTデータを用いて検討 
 した。 
  
 ENSOの影響が最も顕著に現れた領域はカリブ海であった。カリブ海の海面水温 
 偏差は1月から2月にかけてNino3の海面水温変動と有意な正の相関となり、ほ 
 ぼ潜熱フラックス偏差で説明できる。潜熱フラックス偏差の成分として、El 
 Ninoでは大気海洋間の比湿差の効果が最も寄与したのに対し、La Ninaでは風 
 速の効果が最も寄与した。このようなEl NinoとLa Ninaによる違いはWalker循 
 環の熱的および力学的構造にもみられ、El NinoとLa Ninaで熱帯大西洋に対す 
 る強制プロセスが異なることを示唆している。 
  
  
 Title : The responses of atmosphere-ocean system in the Atlantic  
 	associated with El Nino and La Nina. 
  
 Abstract: 
 Asymmetric remote influence between warm and cold phases of El 
 Nino-Southern Oscillation (ENSO) on the tropical Atlantic sea surface 
 temperature (SST) field is examined using NCEP-NCAR reanalysis and 
 GISST datasets from 1948 to 1999.  Regressed SST anomalies (SSTA) in 
 the Caribbean Sea onto the Nino 3 SST index are significant during 
 January-February period just after the mature phase of the ENSO cycle, 
 and then persist for several months.  In both of phases of the ENSO 
 cycle, spatial structures of the composite SSTA are almost 
 antisymmetric to one another, and correspond to those in surface latent 
 heat flux anomalies, respectively.  In the warm phases, changes in 
 air-sea humidity difference are responsible for those heat flux changes. 
  Whereas, in the cold phases, changes in scalar wind speed  
 contribute as a major 
 component to induce the latent heat flux anomalies.  Thus the major 
 atmospheric variables that induce changes in the latent heat flux are 
 different between warm and cold phases of the ENSO in the Caribbean 
 region.  We will discuss associated changes of thermal and dynamical 
 structures in Walker circulation to explain different ways of the 
 remote influence between two phases of the ENSO cycle. 
  

シベリアにおける大陸水循環とそれに伴う降水の安定同位体比の応答 (栗田 直幸) 発表要旨 :

  
 降水・積雪として大気から陸面に与えられたインパクトが再び大気にどのように 
 作用するかといった, 大気陸面相互作用に関する研究は, その直接観測が困難な 
 ことから, 実態解明やプロセスに関しては不明な点が多い. 本研究では, 水の履 
 歴を反映するトレーサーとしての同位体比に注目し, その観測および数値実験か 
 ら, 同位体比から得られる大気陸面過程情報に関する研究を行なった. 特に,降 
 水の同位体比について, 詳しく観測し, その変動について考察を行なった. 
  まず, 降水の同位体比と水蒸気起源の関係について, 東シベリア域で観測した夏 
 期の同位体比観測値を使って解析を行なった結果, 観測された同位体比は空気塊 
 の移流方向の変化に対応して変化しており, 夏期の降水の同位体比は水蒸気起源 
 を反映する指標であることがわかった. さらに, 夏期の大陸降水には陸面から再 
 蒸発してきた水蒸気が大きく寄与していることが知られているので, この研究 
 を発展させ, 大気中の水の動きを準ラグランジュ的に追跡することによって, 降 
 水の同位体比から陸面起源水蒸気の同位体比を数値モデルを使って推定すると 
 , 再蒸発水の同位体比の変動と降水の同位体比の変動は一致しており, 降水の同 
 位体比の変動は, 陸面から再蒸発してくる水蒸気の同位体比に依存していること 
 がわかった.シベリア域では,降水の同位体比には明瞭な季節変化があることから, 
 再蒸発水の同位体比を推定することによって,通常実測不可能な再蒸発水に寄与す 
 る融雪水と夏期の降水の寄与率を降水の同位体比を使って推定できることが明らか 
 になった.このように,大気陸面相互作用研究において,化学トレーサーである降 
 水の同位体比は非常に有用であることが明らかになった. 
  

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連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻 物理系
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359