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第 110 回 地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻物理系セミナー のおしらせ

日 時:5月 16日(木) 午前 9:30
場 所:地球環境科学研究科 管理棟 2階 講堂

発表者:山崎 孝治 (気候モデリング講座 教授)
題 目:空気はどう流れているか−トラジェクトリ解析から−

発表者:渡部 雅浩 (大循環力学講座 助教授)
題 目:力学大気モデルを用いたテレコネクション・パターンの研究

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空気はどう流れているか−トラジェクトリ解析から− (山崎 孝治) 発表要旨 :

  
  大気中の空気の流れをラグランジェ的に理解するために、トラジェクトリ解析 
 (流跡線解析)がしばしば使われるが、そのいくつかの応用例を紹介する。 
 1.父島の海洋性エアロゾル中の植物性起源成分について 
  1990〜1993年に2、3週間に一度程度でエアロゾルのサンプリングが行われた。 
  その結果、例えば、高等植物起源とn-アルカンの(C27-C33)の量は冬から春 
  にかけて多いが、その平均鎖長は秋に大きくなるような季節変化をする。これは 
  冬から春にはアジア大陸から空気が輸送されるが、夏から秋には亜熱帯高気圧 
  の南側を通って、太平洋上を長期間運ばれてきた空気であり、8月9月には台風 
  により東南アジアの陸地から輸送されてきたからと推測されることが、後方
   トラジェクトリ解析から確認された。 
 2.北半球と南半球の間の物質輸送には夏季・冬季モンスーン循環のモンスーン循 
  環、ハドレー循環が重要な働きをしている。 
 3.対流圏から成層圏への輸送は熱帯圏界面を通しておこる。特に、インドネシア・ 
  西部熱帯太平洋域から成層圏へ流入する。この輸送には時間平均場のみならず 
  擾乱が大きな働きをしているようである。 
  
  

力学大気モデルを用いたテレコネクション・パターンの研究 (渡部 雅浩) 発表要旨 :

  
 対流圏大気循環の年々変動において, 大規模に秩序だった 
 偏差分布はしばしばテレコネクション・パターンと呼ばれ, 
 その代表的なものには太平洋/北アメリカパターン(Pacific/North  
 American, PNA)や北大西洋振動(North Atlantic Oscillation, NAO) 
 などがある. 本発表ではここ1〜2年の研究成果に基づき, やや広い意味で 
 定義した「テレコネクションの力学」に内包される二つの話題を紹介する.  
 一つは乾燥大気の自由モードに関して, もう一つは湿潤過程との相互作用を 
 介してSST偏差により強制される熱帯のテレコネクションに関してである.  
 以下, 簡単にそれぞれの話題について説明する. 
 (1) 乾燥大気の特異モード 
 ここ数年, よく議論される循環変動に北極振動(Arctic Oscillation, AO) 
 がある. これは極域/中緯度間の等価順圧的な気圧のシーソーで, 帯状平均 
 東西風の偏差でよく特徴づけられる. この東西風偏差と, それに伴う定常波に 
 よる運動量輸送の間には正のフィードバックが働くことが観測データから 
 示されており, AOの起源は定常波動-帯状流の相互作用にあることが示唆 
 される. そこで, 我々は線型プリミティブモデルを応用して定常波のフィード 
 バックを陽に取り入れた帯状場の力学演算子を作成し特異ベクトルを計算した 
 ところ, 最も中立に近いモードとして観測のAOに似た偏差が得られた. これは,  
 AOを大気の'内部モード'とする見方に根拠を与えるものである. 一方, この 
 モードに続く2番目の解は熱帯全域で東西風偏差が同符号の構造をしており,  
 定常波のフィードバックを除くとこれが第一特異モードになる. 観測データの 
 解析, AGCM実験から, このモードも現実に卓越する熱帯の循環変動に対応する 
 ことが分かり, 便宜上これを熱帯軸対称モード(Tropical Axisymmetric Mode,  
 TAM)と名付けた. 帯状性の高い循環偏差は, 従来言われているAO, 南極振動 
 (Antarctic Oscillation, AAO)に加えこのTAMの3つではないかと我々は 
 考えている. 
 (2) SST偏差に対する熱帯大気の線型応答 
 力学診断の道具である3次元線型モデルの典型的な使われ方の一つは,  
 固定熱源を与えたときの大気の定常応答を求めるものである. 赤道熱源 
 に対する中緯度大気の応答ならば問題はないが, 低緯度の大気応答を 
 考える際には, 熱源に強制された循環偏差が離れた場所で別の熱源/冷源 
 を作るという力学-対流の相互作用を無視できないかも知れない. そこで, 
 (1)で用いたモデルに線型化した積雲対流および海面フラックスを組み込み, 
 積雲偏差による加熱/冷却も内部で計算するような定常モデルに変更した. 
 それにより, SST偏差を強制とする循環-対流結合系の応答を知ることが 
 可能になった. このモデル(湿潤線型傾圧モデル)を, El Nino時の 
 西太平洋〜東アジアの気候を理解する道具として応用してみたところ, 
 興味深い結果が得られた.  
  
  

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連絡先

深町 康 (北海道大学低温科学研究所 )
mail-to: yasuf@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7432
セミナーwebページhttp://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/phys/seminar/eoas_semi/