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第 95 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2001年 4月 26日(木) 午前 9:30 − 12:00
場 所:地球環境科学研究科 管理棟 2階講堂

発表者:青木 一真 (極域大気海洋学講座 D3)
題 目:札幌上空におけるエアロゾルの光学的厚さと粒径分布の変動特性

発表者:橋爪 寛 (大循環力学講座講座 D3)
題 目:東部赤道太平洋における海面水温偏差が大気境界層へ与える影響

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札幌上空におけるエアロゾルの光学的厚さと粒径分布の変動特性 (青木 一真) 発表要旨 :

  
  大気中に浮遊するエアロゾルが太陽放射を散乱・吸収する直接的効果と雲核 
 として働く間接的効果について明らかにすることは、温暖化予測においても重 
 要な課題(IPCC95, 1996)のひとつである。しかし、エアロゾルは、時間・空 
 間変動が大きく、多種多様な物質で構成され存在時間も短く、その特徴を定量 
 的に把握することは難しい。リモートセンシング技術の発達に伴う衛星観測 
 (e.g. Higurashi et al. 2000)や数値モデル(e.g. Takemura et al. 2000) 
 によってエアロゾルのグローバルな分布が示されるようになってきたが、それ 
 らの検証も含め、その変動特性を正確に把握するためには、地上観測 
 (e.g. Holben et al. 1998)から精度のよいデータを蓄積し、定量的に示し 
 ていくことが必要不可欠となってくる。 
  そこで本研究では、四季のはっきりとした札幌上空のエアロゾルの光学的厚 
 さと粒径分布が様々な時間スケールで、どのような変動特性を持っているか、 
 他地点との違いも含め、明らかにすることを目的とした。札幌上空の太陽直達 
 光と周辺光の角度分布の放射輝度を1997年7月から北海道大学低温科学研究所 
 (43.08N, 141.34E)でSky radiometerを使った連続観測を行い、太陽直達光 
 と周辺光により規格化した放射輝度を使い、気柱あたりのエアロゾルの粒径分 
 布をインバージョン法(Nakajima et al. 1983 1996)を用いて算出し、そこ 
 からエアロゾルの光学的厚さを求めた。 
  札幌における約3年間余の観測結果から、エアロゾルの光学的厚さは、春に 
 最大で、秋に最小であるという季節変動特性が見られた。これは、同様の観測 
 から得られた降雪を伴う日本海側の新潟でも同じ傾向が示されている。それに 
 対し、東京やつくばでは、春に最大になるという点は同じであったが、最小は 
 冬に現れ、秋から冬にかけては、変動特性が違うことが確認された。一方、オ 
 ングストローム指数は、夏に最大、春と秋に最小になるという季節変化を示し 
 た。このような季節変動がどのような頻度分布をしているのか調べてみると、 
 季節平均値ははっきりとした変動があるものの、光学的厚さの各季節ごとの頻 
 度分布は、どの季節でもピークが0.1から0.2付近に集中していることがわかっ 
 た。この平均値とピークとのずれが何を意味しているか、オングストローム指 
 数の頻度分布から、その変動特性について調べてみた。春以外のオングストロ 
 ーム指数の頻度分布は、1.0以上の小粒子にピークを持つのに対し、春は、1.0 
 以上と以下の両方にピークを持ち、小粒子と大粒子の両方の効果が見られたが、 
 光学的厚さが季節平均値より高い時の分布を抽出すると、他の季節では、1.0以 
 上にピークが見られたが、春は、1.0以下の大粒子の影響が支配的であった。 
 これは、雪解け後の裸地面によるローカルな土壌粒子の舞い上がりだけでなく、 
 長距離輸送によって運ばれる黄砂粒子(Murayama et al. 2001)による影響が 
 北日本にも現れてくることを示唆する。また、粒径分布の変動特性は、夏に 
 0.2 micron付近の粒子の増大が見られ、春には、1.0 micron以上の大粒子の増 
 大が見られ、光学的厚さを増加させる粒径が季節ごとで違っていることが明ら 
 かになった。 
  

東部赤道太平洋における海面水温偏差が大気境界層へ与える影響 (橋爪 寛) 発表要旨 :

  
 大気境界層は、海洋と自由大気の境界であり、海面水温(SST)とその上を吹 
 く風(海上風)がどのように結び付いているかは、大気海洋結合系を考える上 
 で基本的かつ重要な事項である。本研究は、東部赤道太平洋域における海面水 
 温偏差と、海上風を含む大気境界層の関係を調べるものである。 
  
 東部赤道太平洋の特徴は、赤道湧昇によるSSTの低い領域と、それに伴う東西 
 に伸びる強いSSTフロント(SST傾度が強いところ)である。海上では、貿易風 
 がそのフロントを越えて南半球側から北半球の熱帯収束帯(ITCZ)へと吹き込 
 んでいる。Wallace et al.(1989) は、このSSTフロントの強さや南北位置の年 
 や季節による変化に着目し、フロントと海上風との関係を調べた。彼らは、 
 SSTフロントが生む海面気圧(SLP)差による海上風では説明できない成分 -フ 
 ロントを越えた暖かい海面上で南風偏差- があることを示した。彼らは、冷た 
 い海面から吹き込む風が暖かい海面上で下から暖められ、静的安定度が弱めら 
 れて、鉛直混合が増し、その結果、運動量が下層に運ばれ(通常、海面付近で 
 は上空にゆくに従って風速が強くなるため)、南風偏差が生まれるのだろう 
 と推測した。 
  
 一方、このSSTフロントは、本海域の海流系の南北水平シアーに伴う力学不安 
 定を解消するために起る南北流速変動によって、南北に蛇行(約1000kmの波長) 
 することがよく知られている(赤道不安定波)。また、この南北流速変動/SST 
 偏差は1ヶ月で約1000kmというゆっくりとした位相速度で西進することも知ら 
 れている(これは、大気に対しては止まっていると仮定できる位相速度である)。 
 Hayes et al. (1989) は、Wallace et al. の研究をふまえて、このSSTフロン 
 トの南北蛇行によって生まれる東西に連続するSST偏差に注目し、海上風との 
 関係に注目した。彼らが用いたのは、一点の海洋ブイの海上風とSSTの時系列 
 データのみであったが、SST偏差の伝播性と、海上風偏差がSLPによる場合と鉛 
 直混合による場合ではSSTとの位相が異なることに着目し、その海上風偏差が、 
 Wallace et al. の鉛直混合メカニズムで説明できることを示した。しかし、 
 ブイの空間解像度はあまりに悪く、本海域には島もないため、それ以上の解析 
 は困難であった。 
  
 本研究の目的は、人工衛星データと船上GPSゾンデ観測を組み合わすことで、 
 それまでは不可能だった、赤道不安定波によるSST偏差と結び付いた大気境界 
 層の3次元構造を明らかにすることである。これらの観測データ解析結果は、 
 AGCMを用いた数値実験結果(Xie et al. ,1998)と比較される。 
  
 まず、人工衛星から観測された海上風(Seawinds/QuikSCAT)とSST(TMI/TRMM)を 
 用いて1点相関解析および線形回帰解析を行い、SST偏差に結び付いた海上風の 
 水平構造を初めて明らかにした。ここでも、SST偏差に対応する海上風偏差は、 
 Wallace et al.の鉛直混合メカニズムによる成分が支配的であった。さらに鉛 
 直積算水蒸気量や雲水量(TMI/TRMM)を用いて同様な解析を行った結果、この 
 海上風偏差は、収束発散を介してこの海域の低層雲形成に寄与していることも 
 示唆された。またSST-海上風-雲の位相関係は領域による違いがある。この違 
 いを平均場の違いによるものと考えることで、鉛直混合メカニズムをより理解 
 することを試みた。 
  
 さらに、SST偏差上空の大気境界層の鉛直構造を知るために、1999年9月、水産 
 庁調査船「照洋丸」の協力により、本海域におけるGPSゾンデ観測および船上 
 連続気象観測を行った。SST偏差の最も大きい北緯2度線上(140W-110W)を航行 
 しながら約3波長のSST偏差を横切り、計36点のゾンデ観測に成功した。船上 
 観測では、人工衛星から得られたSST-海上風の関係と同じ関係を示され、ゾン 
 デ観測より海上風偏差が鉛直混合を介して起っていることが示唆された。 
  

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連絡先

豊田 威信 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻 物理系
mail-to:toyota@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7431