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第 108 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1月 31日(木) 午前 9:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:増田 良帆 (気候モデリング講座 D3)
題 目:数値モデルによる,亜熱帯ー亜寒帯の循環境界に関する研究

発表者:荒井 美紀 (気候モデリング講座 D3)
題 目:ブロッキング現象の生成・維持における総観規模擾乱の役割

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数値モデルによる,亜熱帯ー亜寒帯の循環境界に関する研究 (増田 良帆) 発表要旨 :

  
 中緯度海洋において,亜熱帯と亜寒帯の循環境界は平均場,変動場双方の形成 
 において重要な役割を果たす海域である. 
 今回は以下の3つの話題を紹介する. 
  
 1. 
 model内にトレーサーを投入し,その流路を調べる粒子追跡法は海洋学におい 
 て割合ポピュラーな方法である.現在良く行われる方法は,grid上の情報から 
 粒子の速度を推定するのにx方向,y方向に2回線形補間を行うというものであ 
 る(x-y,2次元の世界の場合).しかしこの方法では,境界で粒子が壁に固着 
 するという問題が生じる.このような問題を回避出来る,質量保存を満たす追 
 跡スキームを提案する. 
  
 2. 
 上記の粒子追跡法をGCM上で用いて,亜熱帯循環と亜寒帯循環の間で生じてい 
 る水塊交換の概観を示す.東岸近傍の上層で亜熱帯->亜寒帯への水塊交換,下 
 層ではその逆の交換が生じている. 
  
 3.  
 中緯度における水温偏差は偏西風の変動による寄与が大であると考えられている. 
 この変動は風の強さの変動だけでなく,風応力成分のcurlの変動も含んでいる. 
 循環境界の位置を決定するcurl Tau =0 ラインを理想的な条件の元で 
 変動させ,海洋の応答を調べた. 
 外力の変動に応じて生じた海洋の温度場,密度場の変化はロスビー波の伝播に 
 よって解釈される. 
  

ブロッキング現象の生成・維持における総観規模擾乱の役割 (荒井 美紀) 発表要旨 :

  
 対流圏中高緯度においてジェット気流が南北に大きく分流し、そのため総観規 
 模擾乱の東進を妨げるブロッキング現象は、1週間以上に渡る持続性をもち、 
 その殆んどが大西洋東部と太平洋域に起こることが知られている。 
  
 ブロッキング現象の維持については、ブロッキング時の分流した基本場によっ 
 て変形を受けた総観規模擾乱が重要な役割を果たしていることがこれまで指摘 
 されてきた。そこで、モドン解(ブロッキング時の特徴的な流れ場である南北 
 双極子構造をもつポテンシャル渦度方程式の定常解)をブロッキング状態と考 
 え、等価順圧β-チャネルモデルを用いて、維持に対する総観規模擾乱の有効 
 性について詳細に検討を行った。その結果、変形した総観規模擾乱による効果 
 はブロッキングの分流を維持することが出来ないことが定量的に示された。 
  
 次に、最近観測データから報告されている低周波変動との関連性に注目し、順 
 圧β-チャネルモデルを用いて、山岳によって励起される定在波と総観規模擾 
 乱とブロッキング現象との関係を探った。 
  
 この系では、山岳の高さh=810m〜944mの範囲で、波数4の定在波が卓越する定 
 常解と約20日の周期をもつ周期解とが存在する。この2つの解のうち周期解を 
 基本場とし総観規模擾乱に相当する渦強制を与えた場合に、典型的なブロッキ 
 ング状態のときに生じるジェットの分流が現れた。ただし、この分流が起こる 
 ためには、基本場が大きく変動する周期解であり、かつ与える渦強制の振幅が 
 大きいことが必要である。 
  
 以上の結果は、1) ブロッキング現象の生成には低周波変動の存在が不可欠で 
 あること、2) 大きな振幅をもつ総観規模擾乱は低周波変動からブロッキング 
 状態へ移行させる役割を持つこと、を示唆している。また、これは低周波変動 
 がブロッキング生成に必要であるとのNakamura et al. (1997)の解析結果とも 
 矛盾せず、ブロッキング現象の生成・維持機構の解釈に新たな枠組みを提示で 
 きると思われる。 
  

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連絡先

豊田 威信 (北海道大学低温科学研究所 )
mail-to:toyota@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7431
セミナーwebページhttp://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/phys/seminar/eoas_semi/