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第 106 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1月 17日(木) 午前 9:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:野口 英行 (大循環力学講座 D3)
題 目:風速-蒸発-海面水温フィードバックによる大気海洋結合モード

発表者:稲津 將 (気候モデリング講座 D2)
題 目:中緯度海面水温強制に対するストームトラックの応答

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風速-蒸発-海面水温フィードバックによる大気海洋結合モード (野口 英行) 発表要旨 :

  
 熱帯大西洋に顕著な海面水温(SST)変動として, 北半球で SST が上がる 
 (下がる)と南半球で下がる(上がる)ような南北反対称のシーソーパターン 
 が知られている. この南北反対称モードは, 10年程度の時間スケールで 
 振動し, その空間パターンから SST Dipole と呼ばれている. SST Dipole  
 は熱帯大西洋だけにみられる現象で, なぜ熱帯太平洋には現れないのかと 
 いう問題は非常に興味深い. SST Dipole の成長メカニズムには海洋の力学 
 場は重要ではなく, 風速-蒸発-海面水温(WES)の間に働く正のフィードバック 
 が重要であることが指摘されている. そこで, 大気方程式に SST 方程式を 
 結合させ, 固有値解析によりどのような SST のモードが存在するのかを調べた.  
  
 東西一様な擾乱場の解析から, 最大成長率を持つモードとして, 南北反対称 
 モードが検出された. このモードは赤道方向への伝播モードであるが,  
 その振動は二つの反対称モードの融合によって引き起こされ, SST が最大 
 となるところよりも赤道側に西風アノマリが現れることにより, 赤道へ 
 伝播していくものと考えられる. また, 東西非一様な擾乱場の解析から分散 
 関係を得た. 東西一様な擾乱場の場合, 最も大きな成長率を持つ南北反対称 
 モードは, 波長が短くなるにつれて単調減少していく. 一方, 東西一様な 
 擾乱場の場合, より高次のモードとして存在していた南北対称モードは 
 ある波長帯で大きく成長し, 南北反対称モードのそれよりも大きくなる. 
 このような分散関係の特徴から, 最大成長率を持つモードとして,  
 南北対称/南北反対称どちらになるのかが, 海域の大きさに依存することが 
 示される. 
  

中緯度海面水温強制に対するストームトラックの応答 (稲津 將) 発表要旨 :

  
 北半球冬季,温帯低気圧の活動度の高い領域(ストームトラック)は,太平洋と 
 大西洋上に局在する.観測事実および力学理論からの類推により,ストームト 
 ラックが経度方向に局在化する理由として,次の 2 つが考えられる. 
  
 1) 山岳が中高緯度の準定常波を励起し,東西風の鉛直シアーに東西非一様成 
    分をつくる.風の鉛直シアーは傾圧不安定の成長率と関係しているので, 
    温帯低気圧の活動度は東西方向に非一様になる. 
  
 2) 中緯度 SST の南北温度勾配が東西に変化していると,それに伴い,大気下 
    層の傾圧度に東西非一様成分が生じる.下層の高い傾圧度の領域で温帯低 
    気圧は発達しやすくなり,ストームトラックは東西方向に局在化する. 
  
 本発表では,上記 2 の枠組みを支持する結果を紹介する. 
  
 まず,理想化 AGCM 実験 (水惑星,山岳なし; T42L20; 1月季節固定, 1500日積 
 分) によって,上記 2 の枠組みが存在し,上記 2 の枠組みのみを取り出すこ 
 とが可能であることを示す.さらに,中緯度 SST そのものではなく,その南 
 北勾配こそが,ストームトラックに対して有効な強制力であることを明らかに 
 する. 
  
 次に,標準的な AGCM 実験 (現実地形; T42L20; 季節進行, 10年積分) の結果 
 と,これに中緯度 SST の南北勾配アノマリーを付加した実験の結果を比較す 
 る.ここでは,上記 1 の枠組みが存在する現実においても,中緯度 SST の南 
 北勾配の強制力がストームトラックにとって有効な強制力であることを示す 
 (予定である). 
  
 最後に,モデルで得た結果を現実場に適応する.中緯度 SST の南北勾配とス 
 トームトラックの強さとの間には,実際,良い相関関係が見いだされた. 
  

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連絡先

豊田 威信 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻 物理系
mail-to:toyota@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7431