****************************************************************************************************************

第 83 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2000年 4月27日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:地球環境研究科管理棟 2F 講堂

発表者:細田 滋毅 (極域大気海洋学講座 D3)
題 目:東部亜熱帯モード水の形成過程

発表者:深町 康 (極域大気海洋学講座 助手)
題 目:オホーツク海北海道沿岸域における海氷の厚さと漂流速度の係留観測

****************************************************************************************************************

東部亜熱帯モード水の形成過程 (細田 滋毅) 発表要旨:

  海洋の亜熱帯循環系内には、モード水と呼ばれる鉛直方向に温度や密度がほ 
 ぼ一様になっている水が存在している。北太平洋では亜熱帯モード水や中央モー 
 ド水、北大西洋では18度水が良く知られており、これらのモード水の形成過程 
 には、冬季に形成される深い混合層の存在が重要であると考えられている。最 
 近、北太平洋東部に別のモード水の存在が指摘され、東部亜熱帯モード水 
 (ESTMW)と呼ばれているが、このモード水の形成過程は良く分かっていない。 
 何故ならこの領域では深い混合層が形成されにくいためである。そこで、現実 
 的な地形や境界条件を持つ海洋大循環モデル(OGCM)を用いてESTMW(低渦位 
 水)形成過程を明らかにすることを試みた。 
  まず、その形成領域を調べるために、混合層を持つ簡単な通気水温躍層モデ 
 ルを用いて低渦位水が形成される領域の診断を行った。OGCMの冬季のデータを 
 用いて診断した結果、東部北太平洋にその領域が存在し、深い混合層が存在し 
 ない東部北太平洋でも低渦位水が形成され得ることが示された。では形成要因 
 は何であろうか?定常を仮定し、かつ水平流速が空間的に変化しない状態を考 
 えた場合、このモデルにおける低渦位水の形成は、(1)混合層深の水平勾配が 
 大きいこと、(2)混合層の底における下向鉛直流速が大きいこと、(3)水平密度 
 勾配が弱いことの3つの要素が重要になる。次にこれらの項を分離し形成領域 
 で各項を比較したところ、(3)の等密度線の開き(水平密度勾配が小さい)が 
 最もESTMW形成過程に重要であるという、今まで良く知られていたモード水と 
 は大分異なる過程で形成されるという結果が得られた。 
  しかし低渦位水形成領域の等密度線の顕著な開きは、温度分布にはみられず、 
 逆に塩分分布には北米沿岸の舌状の低塩分水の存在に伴う強い水平勾配が見ら 
 れる。このことは、ESTMW形成に塩分が影響していることを示唆するものであ 
 る。そこで低渦位水形成に対する温度、塩分の寄与について調べた。その結果、 
 形成領域の中央部付近では温度分布が、東西両端では塩分分布が相対的に重要 
 であることが示された。OGCMの海表面温度、塩分境界条件にzonal meanした分 
 布を与えた感度実験でも、ESTMWがはっきりと現れず、温度、塩分両者の分布 
 がESTMW形成に必要であるという結果も得られた。 
  さらに、何故東部北太平洋でこの様な温度、塩分分布が形成されるかにも触 
 れる予定である。 
  

オホーツク海北海道沿岸域における海氷の厚さと漂流速度の係留観測 (深町 康) 発表要旨:

    海氷の厚さは、大気・海氷・海洋の結合系において、熱や淡水の収支を大 
 きく左右する因子で、海氷の量を見積もるために不可欠であるにもかかわらず、 
 衛星等によるリモートセンシングが困難であるため、そのデータは非常に限ら 
 れているのが現状である。今回観測を行なったオホーツク海北海道沿岸域にお 
 いても、海氷の分布については、流氷レーダのデータなどにより良く調べられ 
 ているが、厚さについては、数少ない目視やビデオによる現場観測データが存 
 在するだけである。 
    そこで、1998 年 12 月から 1999 年 3 月の期間に、オホーツク海の北海 
 道湧別沖 6 マイルの地点において係留系を設置し、海氷の厚さおよび海氷の 
 漂流速度の観測を行なった。上記の期間のうち、係留点付近が海氷に覆われて 
 いたのは 2 月中旬以降である。海氷の厚さの測定には、超音波のエコー時間 
 を利用して喫水以下の厚さ (draft) を計測する Ice Profiling Sonar (IPS)  
 を、海氷の漂流速度 (および海洋中の速度) の測定には、Acoustic Doppler 
 Current Profiler (ADCP) を用いた。 
    ADCP によって得られた海氷の漂流速度は、海洋上層の速度と概ね対応して 
 おり、北西季節風が強い場合には、地上風とも対応していた。IPS では、一定 
 時間毎 (ここでは 1 秒毎) に直上にある海氷の draft を計測しているが、 
 その速度は絶えず変動しているので、ADCP による漂流速度を考慮に入れて、 
 一定距離毎についての draft を算出した。このデータについて、平均の  
 draft を計算したところ、海氷が係留点付近に出現した直後の 2 月中旬には 
 約 0.4 m であったものが、3 月下旬には約 1.3 m となっており、季節内で大 
 きく変動することが明らかになった。また、10 m を超す draft も時折見られ、 
 期間中の最大値は、17 m にも達していた。 
  

-----
連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋環境科学専攻気候モデリング講座
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359