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第 81 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2000年 4月13日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:地球環境研究科管理棟 2F 講堂

発表者:吉成 浩志 (気候モデリング講座 D3)
題 目:混合水域における北太平洋中層水の南北流量

発表者:大島 慶一郎 (極域大気海洋学講座 助教授)
題 目:海洋漂流ブイによる、オホーツク海の海流と潮流の観測

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混合水域における北太平洋中層水の南北流量 (吉成 浩志) 発表要旨:

   北太平洋中層水(NPIW)とは、北太平洋亜熱帯循環域の水深約300-700m(ポテ 
 ンシャル密度で26.8σθ周辺)に分布する塩分極小水の事である。これまでの 
 研究により、NPIW の形成水域は本州東方の混合水域周辺である事がわかって 
 きた。本州南岸を離岸し東進し始める黒潮続流(高温・高塩分)の下に、北海道 
 南岸を西進してきた親潮(低温・低塩分)の一部が親潮前線を越え南下、潜り込 
 んで等密度面混合をし、塩分極小水が形成される。これが NPIW の原型となり、 
 黒潮続流によって移流され北太平洋亜熱帯循環域に広く分布していく。 
   黒潮続流から南側の NPIW の分布要因については、上述した続流による移流 
 で説明できる。では混合水域(親潮前線と黒潮続流で挟まれた水域)に分布する  
 NPIW はどのような過程で形成・維持されているのであろうか? 現在 2 つの 
 説がある。 
   ●Reid(1965), Talley(1993) & Talley(1997) 説: 
       親潮水(亜寒帯水)が東西広域に渡って親潮前線を越えて南下し黒潮水と 
       水平混合する事で混合水域の塩分極小水(つまり NPIW)が形成・維持さ 
       れている。 
   ●Yasuda et al.(1996) 説: 
      続流下の塩分極小水の一部が東進途中に黒潮前線を越えて北上する事で 
      塩分極小水(NPIW)が形成・維持されている。 
   上記 2 説の妥当性を検証する為に、観測船によって得られた CTD-RMS, 
 LADCP (Lowered Acoustic Doppler Current Profiler) データを用いて、1998  
 年 7 月時点での 37°N 線上本州東岸(141°E)--160.5°E間を横切る南北絶対 
 流量の導出を試みた。 
   NPIW の密度層(26.6--27.5σθ)において 9.2 Sv (1 Sv = 10^6 m^3/s) の 
 北上流量が観測された。等密度面混合を仮定すると、これは 7.3 Sv の黒潮水 
 (高温・高塩分)と 1.9 Sv の親潮水(低温・低塩分)で構成されていた。NPIW  
 の上層(26.6--27.0σθ)と下層(27.0--27.5σθ)において、黒潮水と親潮水の 
 混合比の局所的かつ大きな変化と中規模渦が形成する流速場の影響が相い重なっ 
 て、親潮水の南北流量収支に差は生じるものの、NPIW 全体として北上傾向が 
 観測された。つまり、本州東岸--160.5°E 間の 37°N より北側の NPIW は、 
 黒潮続流付近で形成された NPIW の一部が北上して分布する事が示された。こ 
 の結果は Yasuda et al.(1996) 説を支持する事になる。 
   今回の発表では、流量計算の際に使用する定常絶対流速の導出時に算出され 
 る誤差が、どれ程のものか・どれ程流量に影響するかという事、そして本州東 
 方沿岸域を南下する親潮水の季節変動についてもお話したいと考えている。 
  
  Note: I will make presentation with speaking in Japanese, but the 
        OHPs I'll use will be written in English.  If you want the 
        English version of above abstract, please contact me (e-mail: 
        utatane@ees.hokudai.ac.jp) without any hesitation.  Of course 
        I'll be willing to take any questions during presentation both 
        in English and in Japanese! 
  

海洋漂流ブイによる、オホーツク海の海流と潮流の観測 (大島 慶一郎) 発表要旨:

   オホーツク海では、流れの場に関しては、長期連続した直接測流がほとんどなく、 
 実はよくわかっていない。 
 昔のロシアの研究者が、水塊の移動・海氷の動きなどから、schematic 
 に描いた循環像があるだけである。それらによると、オホーツク海は反時計周りの循 
 環があり、特にその西岸では境界流として東カラフト海流が存在すると考えられてい 
 る。現在行われつつある「オホーツク海の総合的研究(代表:若土正暁)」に対して 
 も、最も基本的な物理量である流れの場を明らかにするというのは、不可欠のことで 
 ある。1999年8月〜9月のロシア船クロモフ号において、東カラフト海流域を中心とし 
 て計20個のアルゴス海洋漂流ブイを投下し、流れの場をラグランジュ的に観測したの 
 で、その結果を中心にお話する。  
   まずこの観測により、オホーツク海内の最も顕著な流れとされている、東カラフト 
 海流の存在が(直接測ったという意味では、はじめて?)確認された。ブイによると 
 、北西の陸棚域よりカラフト南端までの陸棚に捕捉された南下流が、0.2-0.3m/sの速 
 さで存在していた。この海全体の平均的な循環は、北に反時計回り、南に時計回りの 
 ジャイヤがあり、その境界付近は東向流となる。多くのブイは、東カラフト海流にの 
 って南下したのち、この東向流にのってブッソル海峡から太平洋へ流出した(3-4ヶ 
 月程度で)。これらから、オホーツク海の表層水は、主にブッソル海峡から太平洋に 
 流出すること、その平均滞留時間はかなり短いこと、などが示唆される。 
   その他の顕著な結果としては、ブッソル海峡の北西部に直径100-150km程度の強い 
 時計回りの渦がほぼ定常的に存在していたことである。historical 
 dataからもここには常に低塩分水渦が存在しており、ブイの動きと矛盾しない。なぜ 
 ここに、このような渦がほぼ定常的に存在するのかは地球流体力学的にも興味深い問 
 題である。 
   オホーツク海の面白い特性の一つとして、この海の持つ固有振動の周期が一日周期 
 に近く、共鳴が起こり日周潮の潮流が極めて大きいことがある。潮流simulationによ 
 ると、その振幅はカシェバノババンクという海堆上で最大となり、1 
 m/s以上にもなる。この海堆上に投下した2つのブイは、思わく通りこの海堆に捕捉 
 され、このあたりの潮流や平均流(潮流の非線型作用によってできると考えられる) 
 を観測することに成功した。それによると、潮流simulationは現実をよく再現してい 
 ることが示唆された。 
   時間があれば、観測されたオホーツク海の循環に対する力学的解釈についても触れ 
 る予定である。 
  

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連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋環境科学専攻気候モデリング講座
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359