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第 80 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2000年 1月27日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:橋爪 寛 (極域大気海洋学講座 D2)
題 目:1999年東部赤道太平洋で見られた大気海洋1ヶ月変動

発表者:伊東 素代 (極域大気海洋学講座 D3)
題 目:等密度面気候値データセットによるオホーツク海中層の海洋構造

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1999年東部赤道太平洋で見られた大気海洋1ヶ月変動 (橋爪 寛) 発表要旨:

 大気と海洋の相互作用を知るためには、その結合部分である海面水温(SST) 
 とその上での海上風、雲がどのようなメカニズムで結合しているかを調べるこ 
 とが重要である。そのために非常に適した場所が東赤道太平洋にある。 
  
 東赤道太平洋上では、毎年6月から12月ごろにかけて貿易風の強まりとともに、 
 南緯1度を中心として、舌状の冷水域が西に延びる。これによって、北緯2度沿 
 いに強いSSTフロントができる。このフロントは、海洋の海流構造を原因とす 
 る力学的不安定によって(つまり海洋起源)大きく南北に蛇行することが知ら 
 れており、「赤道不安定波(Tropical Instability Waves (TIWs))」と呼ば 
 れている。この波動は、東西スケール約1000km、南北スケール約500kmの現象 
 であり、約30日の周期で西向きに伝播する。 
  
 本研究ではいままで、人工衛星による海上風、そして鉛直積算水蒸気や雲水量 
 データを用いて、この北緯2度(および南緯2度)沿いに現われるSSTの暖冷が 
 どのように大気境界層と結合しているかを探ってきた。これに加えて、TIWsに 
 結合した大気鉛直構造を調べるために、昨年9月水産庁の漁業調査船照洋丸に 
 協力していただき、北緯2度線沿いに波動を横断しながら1日4回または8回のゾ 
 ンデ観測(およそ1波長に8〜16観測点)を行った。 
  
 今回の発表では、照洋丸ゾンデ観測が行われた1999年のTIWsについて述べる。 
 まず、人工衛星TRMMのデータの回帰解析から、SSTアノマリと海上風、鉛直積 
 算水蒸気量、雲水量がはっきりと結合していること、そしてそれらの位相関係 
 が示される。SSTと海上風は常に同位相であり、背景風の鉛直シアーとSSTアノ 
 マリが生む大気の鉛直混合によって結合していると考えられる。そして、照洋 
 丸ゾンデ観測によって得られた大気境界層の鉛直構造がそれを裏付ける。水蒸 
 気量、雲水量については、そのSSTとの位相関係から、(a)SSTが生む鉛直混合 
 による気温逆転層の高度変化、もしくは、(b)同様の鉛直混合によって生まれ 
 た海上風アノマリの収束発散、のどちらかによって結合していることが推測さ 
 れる。またこのどちらのメカニズムがその主な役割を担うかは、場所によって 
 異なり、それは、その場所での背景風の鉛直シアー、つまり大気安定度による 
 ことが示唆される。ここでも照洋丸ゾンデ観測によって得られた大気鉛直構造 
 がそれらの推測を立証する。 
  

等密度面気候値データセットによるオホーツク海中層の海洋構造 (伊東 素代) 発表要旨:

   北太平洋亜熱帯循環域の水深約300〜700mには、北太平洋中層水と呼ばれる 
 密度26.8σθの塩分極小水が存在している。オホーツク海は、この北太平洋中 
 層水の起源の一つとして注目されており、現在までの研究から、オホーツク海 
 から、低温、低塩、高酸素の水が流出することが、重要であると示唆されてい 
 る (Yasuda (1997))。このオホーツク海特有の中層の構造は、北西陸棚域での 
 海氷形成により形成 (Kitani (1973))、南西部に日本海から流入する宗谷暖流 
 水が重要 (Watanabe and Wakatsuchi(1998))という2つの説があるが、観測も 
 少なく、詳しいことはあまりわかっていない。 
   本研究では、World Ocean Data Base 1998に収録されている、温度、塩分、 
 溶存酸素データを使用して、オホーツク海とその周辺の高解像度の26.6〜27.5 
 σθ等密度面気候値データセットを作成した。海洋では、異なる密度面間の混 
 合に比べ、等密度面混合が卓越すると考えられることから、近年、等深面より 
 も等密度面で気候値を作成する方法が用いられるようになってきており(北大 
 西洋: Lozier et al., 1995; Curry,1996、北太平洋: 須賀, 1999; Macdonald 
 et al., 1999)、今回はこの手法をオホーツク海に用いてみた。 
   気候値から中層ではオホーツク海北西部、南西部、北東部、千島列島の海峡 
 に特徴的な構造が見られた。まず、北西部では、Kitani (1973)が指摘した、 
 海氷形成による低温、低塩、高酸素水の沈み込みが、26.8〜27.0σθで見られ 
 た。南西部では、Watanabe and Wakatsuchi (1998)が指摘した、宗谷暖流水の 
 沈み込みと考えられる、高温、高塩、高酸素水が同様の密度範囲で見られた。 
 このことから北西部、南西部とも、26.8〜27.0σθでは、表面水の沈み込みで、 
 水塊の形成が起こっていると言える。 
   それに対して、北東部には最も低酸素の古い水が存在している。この海域は 
 高緯度にあるため、北西部と同様に冬季に沈み込みが起こると考えられおり、 
 今回の結果とは矛盾している様に見える。しかし、この海域は密度26.9σθ以 
 上は、sillによってオホーツク海中央部と遮断されており、海底から数百mの 
 厚い低酸素の層が存在している。そのため高酸素水が供給されても、低酸素水 
 との混合などで特徴は薄められてしまうと考えられる。その他、オホーツク海 
 の千島列島の海峡では、この海域の中層では最大の層厚が26.8σθを中心に見 
 られ、鉛直混合により水塊の変質が起こっていると考えられる。さらに太平洋 
 側にもその水が流出している事などが示唆された。 
  

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357