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第 79 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2000年 1月20日(木) 午前 9:30 〜 10:30
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:豊田 威信 (極域大気海洋学講座 助手)
題 目:オホーツク海南部で採取された特徴的な薄い氷についての室内実験

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オホーツク海南部で採取された特徴的な薄い氷についての室内実験 (豊田 威信) 発表要旨:

 これまで約4年間にわたって行われてきたオホーツク海南部海氷域における海 
 氷観測の中で、1996,97年に全層にわたってC軸がほぼ鉛直な氷厚約1cmのニラ 
 スが発見された。1999年においてもC軸が鉛直な層が比較的厚いニラスが観測 
 された。従来、海水を静かに凍らせたときに海氷の極表層にC軸が鉛直な層が 
 生成されることが知られていた(e.g. Weeks and Ackley, 1986)が、その厚 
 さは高々数ミリ程度に限られており、今観測のように約1cm に達した構造は 
 これまで報告例のないものであった。そこで、どのような条件の時にこのよう 
 な海氷が生成されるのかを室内実験により更に詳しく調べてみることにした。 
   
 C軸が鉛直な層の厚さに影響を及ぼし得るパラメータとしては温度(成長速度) 
 と塩分が考えられる。そこで、異なる海水塩分(8,17,25,34 psu)を持つ幅 
 30cm、水深60cmの4つのタンクを用意して異なる温度条件(-10,-15, -20℃) 
 のもとでいずれも静穏な環境で結氷させた。タンクは側面や底面からの結氷を 
 避けるために厚さ10cmの断熱材で覆い、表面から静かに結氷できる環境を整え 
 た。海氷生成に伴う母海水の塩分濃度の変化は6時間毎に採水してモニターし、 
 氷厚の変化はタンクの側面に取付けた目盛りから直接読み取った。氷厚が約4〜 
 5cmに達した段階で海氷を切り出し、薄片解析により各々の海氷の構造を調べ 
 た。表面付近のC軸が鉛直な層の厚さは鉛直断面の薄片資料から1cm間隔で測定 
 して平均することにより求めた。確認のため実験は各々2度繰り返して行った。 
  
 更に、考え得る状況と対応させるため、32psuの海水を一旦約2cm厚まで結氷 
 させた(夜間結氷)後に融解させ(日中融解)、再度結氷させて(夜間結氷) 
 海氷の結晶構造がどのように変化するかについても調べた。 
  
 3つの温度設定のうち、-10℃は成長速度が1.5cm/12hourでオホーツク海南部 
 の夜間の結氷速度とほぼ等しいと見積もられるので、その実験結果はこの海域 
 のモデルケースと考えられる。従って、-10℃の結果を基準として実験結果を 
 まとめた。その結果、C軸が鉛直な層が成長し得る厚さは、 
 1) 温度条件よりも海水塩分に対する依存性が高いこと、2) 観測された約1cmの 
 厚さまで発達するためには、低塩分水が必要であること、が分かった。 
 一方、熱収支解析の結果から、この海域においては、日中融解により表面付近 
 に低塩分水が形成され得ることが示唆されるため、この低塩分水がニラスの構 
 造に影響を与えた可能性が高い。実際、通常塩分の海水を一旦薄く結氷させた 
 海氷を融解させてから再度凍らせた実験の結果においても、一度目の結氷では 
 C軸が鉛直な層は4.31±1.41mmであったのが、二度目の結氷時には10.43± 
 4.85mmにまで達しており、上に述べた過程が実際に起こり得ることを裏付けて 
 いる。海氷の構造が融解の影響を受けているという点で、これもこの海氷域の 
 一つの特徴と考えられる。 
  

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357