****************************************************************************************************************

第 76 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1999年11月 18日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:河野 時廣 (北海道東海大学工学部海洋開発工学科 助教授)
題 目:1998年8月クロモフ号観測結果からみた親潮水形成過程

発表者:池田 元美 (気候モデリング講座 教授)
題 目:北極域の気候変動:地球温暖化はおきているか

****************************************************************************************************************

1998年8月クロモフ号観測結果からみた親潮水形成過程 (河野 時廣) 発表要旨:

  北太平洋を南北に横切る断面の25°N〜40°Nには塩分極小がみられる(Reid,1965)。 
 北太平洋中層水とよばれるこの低塩分水は26.8σtの密度面を中心として低緯度海域か 
 ら高緯度の海域へと連続して分布しているものの、高緯度海域では冬季におけるこの 
 密度面の海面への露出は観測されていない。一方、26.8σt上の塩分と渦位(密度面間 
 の厚み)の広域的な分布をみれば、低塩分で低渦位の(密度面間の厚い)海水がオホ 
 ーツク海から北海道〜東北沖合の混合水域へと広がっている(Talley,1993; Yasuda e 
 t al.,1996)。オホーツク海の中層は海水特性が鉛直的に一様で低温、低塩分、高酸素 
 であり、この原因として北部陸棚域でのブラインの沈み込み(Kitani,1973)や宗谷暖流 
 水の冷却・沈降(Watanabe and Wakatsuchi, 1998)があげられる。すなわち、オホーツ 
 ク海で冬季の冷却の影響を受けた海水がこの海域で沈降したのち亜熱帯海域に取りこ 
 まれて、北太平洋低緯度海域の塩分極小構造を維持していると考えられる。この仮説 
 を検証するためには亜寒帯水が亜熱帯海域へ取りこまれる量とその機構を調べるとと 
 もに、オホーツク海と太平洋間の海水交換量と機構を明らかにすることが必要である 
 。力学的高低偏差は千島列島の両側で岸沿いの南西向きの流れを示すとともに(川崎 
 ・河野,1992; Kono and Kawasaki, 1997)、塩分と渦位の分布から考慮して最も深いブ 
 ッソル海峡からのオホーツク海水の流出が考えられてきた。本研究では、ブッソル海 
 峡から樺太北端に至る観測線における水温、塩分、溶存酸素を用いて海峡付近の海水 
 混合過程を調べるとともに、体積、塩分、および溶存酸素量の輸送量収支を調べ、オ 
 ホーツク海と太平洋間の海水交換過程について考察した。その結果、ブッソル海峡北 
 西側の海域には宗谷暖流起源の水、ブライン起源の水、およびベーリング海起源の水 
 が混合して形成されていることが示唆された。さらに、ブッソル海峡周辺の強い南西 
 流に対してその北側の広い海域における弱い北東流がバランスしており、塩分輸送と 
 溶存酸素量輸送はそれぞれ南西向きと北東向きが卓越していた。このことはブッソル 
 海峡からの流出と一致しない。一方、体積輸送のバランスを仮定すれば観測線の南側 
 が塩分のシンク、溶存酸素のソースとなっていた。 
  

北極域の気候変動:地球温暖化はおきているか (池田 元美) 発表要旨:

  まず学生諸君に一言申す。当セミナーの参加者が極端に少ない。おそらく、 
 「どうせ聞いてもわからないから」という答えが返ってくるでしょう。しかし、 
 それを言うのは今回のセミナーに出てみてからにしなさい。気候学というのは気 
 象学、海洋学などを基礎にしているが、総合的に気候変動を扱うのはまだ発展途 
 上であり、諸君のたちいるすきがあると思う。今回は私のできる範囲で、誰でも 
 わかりそうな基礎から第一線研究者が取り組んでいるホット・トピックまで、話 
 すことを試みる。M1諸君でも理解し面白いと感じる部分をどのくらい作れるか、 
 乞うご期待! 
  北極は寒い。海は氷に覆われている。そしてほとんどの対流圏から下部成層圏 
 までは、反時計まわりの風が吹いている。その変動に目を移すと、最近40年で 
 は、北極振動という十日から10年程度の周期を持った変動が顕著である。これ 
 は北極を中心とした気圧の高低が、シベリアの寒暖、北極成層圏の暖寒と連動し 
 ており、冬にもっとも顕著になる。大気に対応してシベリア陸棚の海氷面積が増 
 減するが、これは夏に顕著となる。さて最近40年のトレンドは北極振動の一方 
 に似ている(気圧低下、シベリア温暖化、成層圏寒冷化、海氷減少)。しかし全 
 てが似ているわけでもない。中緯度アジアから太平洋にかけての気圧変化は北極 
 振動と逆である。また夏にもトレンドが顕著になり、北極の雲の効果も北極振動 
 とは逆になる。冬の大気力学場だけでなく、他の季節と物理量を見ることによっ 
 て、トレンド(あるいは50年以上の周期をもった変動)を10年周期以下の変 
 動から分離することを試みる。もしこれができれば、地球温暖化の確認と解明へ 
 の貢献となるはずである。 
  海洋については、最近10年で北極海中層部にある北大西洋からの流入水が増 
 加し、グリーンランド海の低塩化、北大西洋深層水の減少がおきている。これら 
 の変化は全球規模の気候変化に重大な影響をおよぼす可能性を秘めており、実体 
 の解明が急務である。大気海洋簡略結合モデルをもちいて、北極域の海洋と大気 
 の相互作用が重要で可能性を示したので、その示唆するところを述べる。 
  

-----
連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357