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第 73 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1999年10月 21日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:笹井 義一 (気候モデリング講座 D3)
題 目:北部北太平洋における大気を含む海洋表層の炭素循環に関する研究

発表者:伊藤 頼 (大循環力学講座 D1)
題 目:レンズ渦の南下

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北部北太平洋における大気を含む海洋表層の炭素循環に関する研究 (笹井 義一) 発表要旨:

   近年、大気中の二酸化炭素濃度の増加によって、地球温暖化が問題となって 
 いる。海洋は、この増加した二酸化炭素の吸収源としての役割が期待されてい 
 るが、どの程度吸収するのか? 
  
   大気と海洋の間の二酸化炭素フラックスは、風速の関数である気体の交換速 
 度と気体の溶解度、大気と海洋との間の二酸化炭素分圧差によって求まる。海 
 洋表層中の二酸化炭素分圧の季節変動は、大気中の二酸化炭素分圧よりも大き 
 いので、大気と海洋の間のより正確な二酸化炭素フラックスを見積もるために 
 は、海洋表層中の二酸化炭素分圧の変動を正確に押える必要がある。 
  
   そこで、本研究では、混合層モデルに移流の効果(海面〜300m深まで)を入 
 れた3次元モデルを作成し、北部北太平洋における全炭酸分布の季節変化を再 
 現し、海洋表層の炭素収支の見積りを行なった。 
  
   海洋表層中の全炭酸濃度は、秋から冬にかけては、混合層の発達に伴う混合 
 層以深から高濃度の全炭酸の取り込みで高くなり、春から夏にかけては、生物 
 生産によって海洋表層から全炭酸が沈降することによって小さくなった(季節 
 変化が再現できた)。 
  
   海洋表層の炭素収支比は、生物生産の効果を全域一様にした場合では、移流 
 (水平+鉛直):生物生産:大気と海洋の間の二酸化炭素フラックス = 4: 
 5:1であった。これらの結果に、生物生産の効果を変えた場合の炭素収支比 
 や、大気と海洋の間の二酸化炭素フラックスの経年変化、現時点求まっている 
 大気と海洋との間の二酸化炭素フラックスについても報告する予定である。 
  

レンズ渦の南下 (伊藤 頼) 発表要旨:

 海洋中には様々な渦が存在する。黒潮やGulf Streamから切離して生成した100km 
 スケールの渦や、ジブラルタル海峡から流出してきた地中海水を起源とする北大 
 西洋中層のMeddyと呼ばれる20-30kmの渦が存在している。特にMeddyは強い南下 
 傾向を持つことで知られている。 
 このような高気圧性渦の南下傾向に関して、渦の上下層のポテンシャル渦度のア 
 ノマリが寄与している可能性が、Morel&McWilliams (1997)、Sutyrin&Morel  
 (1997)の研究で検討されてきた。 
  
 これまでの研究では、2.5層β平面プリミティブモデルを用い、上層のレンズ渦 
 に対する下層の影響を調べてきた。初期にレンズ渦が西に進むことによって下層 
 には渦対が生成され、下層にポテンシャル渦度アノマリを従えて上層の渦が南南西 
 にあるいは南に進むことが分かった。下層をf平面地衡流で近似し、レンズ渦が下 
 にポテンシャル渦度アノマリを維持して移動する定常解が存在することが分かり、 
 速度とポテンシャル渦度の関係が求まった。 
 またこの結果に相対渦度の効果を取り入れ、速度とポテンシャル渦度の関係を調べ 
 ると、f平面地衡流近似下での関係に良く合う事が分かった。 
  
 数値モデルで、初期にレンズ渦の西への自己移流で下層に渦対を作り、その後、 
 場をf平面にした実験では、レンズの南下速度が遅くなり、地衡流理論で示さ 
 れた定常南下が見られなかった。これに伴って下層の渦位アノマリの中心がレン 
 ズの中心に寄っていく様子が見られたが、トレーサーを用いた実験より数値粘性 
 による渦位の散逸によるものだと推測された。 
  

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357