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第 71 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1999年 9月 30日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:地球環境科学研究科管理棟 2階 講堂

発表者:向川 均 (気候モデリング 助教授)
題 目:北大西洋域における天候レジームと気候変動

発表者:沼口 敦 (大循環力学講座 助教授)
題 目:チベット高原周辺の水循環: 日変化と総観規模変動

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北大西洋域における天候レジームと気候変動 (向川 均) 発表要旨:

 これまでの天候レジームに関する全ての解析的研究は、季節内長周期変動成分 
 が卓越する冬季に限られてきた。ここでは、北大西洋域における夏季の天候レ 
 ジームについて解析した研究(*)を紹介し、その結果を冬季における天候レジー 
 ムや大気モデルにおける天候レジームと比較することにより、天候レジームに 
 関する理解を深める。 
  
 夏季の天候レジームの解析では、44年分の日々の 700 hPa 等圧面高度場デー 
 タを用いた。 このデータから、天候レジームを、高度場の変動成分での主要 
 な3つの経験的直交関数 (EOF)で張られる位相空間における存在確率密度関数 
 (PDF) の非一様性にもとづき定義することを試みた。その結果、多変数ガウス 
 分布と比べ、統計的に有意に大きな PDF の値を持つ領域として、5つの天候レ 
 ジームを抽出することに成功した。これらの天候レジームには、北大西洋振動 
 パターン (NAO) の2つの位相に相当する循環パターンを持つものや、北大西洋 
 域でのジェット気流が強化されるパターンを持つものが含まれる。 
  
 次に、夏季における天候レジームのさまざまな特徴について、冬季の天候レジー 
 ムと比較しながら記述する。その結果、夏季の天候レジームの循環パターンは 
 冬季のそれとよく類似していることが示される。これは、夏季の天候レジーム 
 が季節変化の影響を受けにくいことを示唆している。 
  
 また、簡単な大気モデルや GCM を用いた、天候レジームに関するこれまでの数 
 値的研究で得られている結果をもとに、夏季の天候レジームの特性について議 
 論する。最後に、気候変動を天候レジームの出現頻度の年々変動としてとらえ 
 る観点についても言及する。 
  
 (*) Mukougawa, H and H. Sato, 1999: Multiple weather regimes in the 
 summertime North Altantic circulation. J. Met. Soc. Japan, 77, 
 483--494. 

チベット高原周辺の水循環: 日変化と総観規模変動 (沼口 敦) 発表要旨:

   GAME (GEWEX Asian Monsoon Experiment) のチベット班に参加して行っている, 
 チベット高原周辺の水循環の研究にについて紹介する.チベット高原は,モンスー 
 ン期には大気に対する強い熱源となっている.なかでもモンスーンの成熟期には 
 雲にともなう潜熱加熱の割合が大きく,この地域の水循環がモンスーンの変動の 
 コントロール要因として重要であると考えられている. 
   チベット高原では雲活動などの水循環の日変化が非常に盛んである.1979年の 
 特別観測に基づいて Yanai and Li (1994, MWR)が解析を行っているが,その中 
 で,チベット高原上の多くの観測点で朝から夕方にかけて水蒸気量が減少するこ 
 とを指摘し,高原をとりまくスケールの循環の日変化が重要であろうと推測して 
 いる.GAME の観測でも,同様な水蒸気の変動が示されたが,これは夕方以降に 
 雲活動が盛んになることと一見矛盾している.しかし,局地的な循環の日変化を 
 考えると,日中は山谷風循環により水蒸気が山岳域に輸送され,山岳域では夕方 
 にかけて水蒸気が増大して雲活動をもたらすが,ほとんどの観測点が位置する谷 
 域では下降流によって昼間の水蒸気の減少が起こるという可能性が指摘でき,局 
 地モデルによる数値実験の結果はこの考え方を支持している.GMSの水蒸気チャ 
 ネルデータ等を用いた水蒸気場の変動解析をもとに,この日変化の様相に加え, 
 約15日周期の変動の水循環に果たす役割などについても議論する. 

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連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻気候モデリング講座
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359