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第 64 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1999年 5月 13日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:地球環境科学研究科管理棟 2F 講堂

発表者:青木 一真 (極域大気海洋講座 DC3)
題 目:雲とエアロゾルを追い求めて、何がわかってきたのか?

発表者:大島 慶一郎 (極域大気海洋学講座助教授)
題 目:南極融解期における簡略な海氷・海洋結合モデル(A simple ice-ocean coupled model in the Antarctic melting season)

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雲とエアロゾルを追い求めて、何がわかってきたのか? (青木 一真) 発表要旨:

  エアロゾルが気候に与える影響は、粒子そのものによる直接的効果(太陽放射 
 の散乱・吸収)と、雲核となって雲の形成に関わる間接的効果に分けられる。 
 最近、そのような効果が、どのぐらい気候に影響(放射強制力)を与えている 
 かについて、気象学の中で重要な位置を占めてきている。近年、衛星リモート 
 センシングの発達により、グローバルスケールでのエアロゾルの変動を衛星デー 
 タ(e.g. Higurashi and Nakajima, 1999)から見ることが出来るようになっ 
 てきた。しかし、エアロゾルが「時空間分布の変動が大きい」といった特徴を 
 持つため、そのメカニズムの解明はもちろん、衛星やモデルの検証についても、 
 多地点で地上からの長期モニタリングが非常に重要となってくる。我々による、 
 海洋上(カリフォルニア沖など)や陸上(新潟や沖縄など)での観測が、 
 ADEOS/OCTSの初期結果(Nakajima et al., 1999)に地上検証データとして使 
 われたのは、いい利用例である。 
  
  今回のセミナーは、今まで私の研究では、エアロゾルの直接的効果のみ研究を 
 進めてきましたが、直接的効果と間接的効果との関係についても取り組んでい 
 る最中で、実際の観測結果、それに伴うモデルなど、以下の3つについて、最 
 近の話題を中心にお話しする予定である。 
  
 (1)衛星観測と地上観測 
 観測から得られたエアロゾルの時空間分布の変動とそのデータ利用(衛星デー 
 タの検証など)のお話し。 
  
 (2)札幌や各地での放射観測(Sky radiometerやLidarなど) 
 今までSky radiometerから得られた観測データでは、鉛直1層で議論していま 
 したが、Lidarを組み合わせることにより、鉛直分布や非球形性などの情報も 
 加わり、詳細なエアロゾルや雲の変動を見ることが出来るようになってきたと 
 いうお話し。 
  
 (3)準実スケールでの雲核形成の光散乱測定(立坑観測)観測とモデル 
 気象屋さんが、穴の中にもぐると言う、ちょっと不思議な実験ですが、実際に 
 鉱山の立坑内で、エアロゾルを散布して雲を発生させた実験についてのお話し。 

南極融解期における簡略な海氷・海洋結合モデル(A simple ice-ocean coupled model in the Antarctic melting season) (大島 慶一郎) 発表要旨:

   海氷の成長・融解は北極多年氷域での知見に基づいて研究が行われてきた経緯もあ 
 り、「海氷は下面より成長、上面より融解する。従って、海氷融解は主に海氷表面の 
 熱収支で決まる」というのが通説的(教科書的)な理解となっていた。しかし、これ 
 は一般的に当てはまるものではなく、典型的な季節海氷域である南極海ではこのよう 
 にはなっていない。夏季の南極海氷域では、大気からの熱のinput(主に短波放射に 
 よる)は、海氷表面ではなく、アルベドの小さい開水面を通してほとんど行われる。 
 従って、短波放射が開水面に吸収されその熱が海氷を側面と底面から融かす、という 
 熱の流れが、南極の海氷融解の主たる過程と考えられる。そこで、南極の海氷融解を 
 モデル化する場合、海氷と上層海洋を結合した系として考えることが不可欠となる。 
  
   本研究では、海氷の融解は開水面から海洋混合層に入った熱によってのみ起こると 
 するsimpleな熱力学モデルを提出する。まずこのモデルから、海氷密接度と混合層の 
 水温との関係(CT-relation)は、あるcurveに収束することが示される。 
 これはOhshima et 
 al.,(1998)が日本南極観測隊での観測から見出したCT-relationをよく説明し得る 
 ものである。 
 このモデルを夏季の南極海に適用すると、子午面方向の海氷後退もそれなりに再現で 
 きる。さらに、南極海の周極性を勘案しモデルを2次元に拡張し、風による移流の効 
 果を組み入れると、1次元(ローカル)モデルで再現されなかった海域(海氷が遅く 
 まで残りすぎる発散域と、海氷が早く解けすぎる沿岸域)もよく再現される。この2 
 次元モデルはまた、「一旦風の場が海氷を発散させて海氷密接度を減じるセンスに働 
 くと、海洋混合層への熱のinputが上昇し、さらに密接度が減じる」という、正のフ 
 ィードバック効果を表現しえる。年による海氷後退の違いはこのフィードバック効果 
 が効いていることが示唆される。 
  
   現在、気候モデルからの要請もあって、種々の海氷過程を組み込んだ、様々な海氷 
 ・海洋モデルが開発されつつあるが、融解期に限ると南極海では非常に簡単な結合モ 
 デルで海氷・海洋システムの基本的特徴が表現できる、・・・と私は思っている。 

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357