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第 0 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1999年 1月 21日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:山崎 孝治 (気候モデリング講座 教授)
題 目:オホーツク海の海氷が大気循環に及ぼす影響の研究

発表者:内本圭亮 (大循環力学講座 D1)
題 目:海底地形による form drag について

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オホーツク海の海氷が大気循環に及ぼす影響の研究 (山崎 孝治) 発表要旨:

  オホーツク海の海氷面積の多寡が大気循環に及ぼす影響について数値実験の 
 結果を参考にして現実データの解析から明らかにする。 
  オホーツク海の海氷面積は年々大きく変動している。この海氷面積の年々変 
 動は大気循環年々変動によって生ずると考えられるが、逆に海氷面積の変動が 
 海面からの顕熱・潜熱フラックスの変動を通して大気循環に影響を及ぼすこと 
 が大気大循環モデル(AGCM)を用いた数値実験によって明らかになった 
 (Honda et al., 1996)。海氷面積の変動は北海道やオホーツク海でのローカル 
 な影響のみならず、ロスビー波の伝播によりアラスカ・北米にまで影響が及ぶ。 
 また、日本の気候にも影響を与える。地上気温でみるとオホーツク海周辺は下 
 降するが、アラスカではアリューシャン低気圧が北西にシフトして強まるため 
 に暖かくなる。また、西日本を中心に量的には小さいが地表気温は高くなる。 
 これは下層で南東風偏差となり北西の季節風が弱まるためである。 
  現実大気の相関解析からこうした海氷に対する大気の応答のみを取り出すの 
 は難しい。なぜなら、現実大気には海氷拡大をもたらした循環場、つまり大気 
 から海氷への影響も含まれているからである。Honda et al.(1998)は、ENSOを 
 取り除いた現実の大気循環から2月の海氷が多くかつ拡大している年のコンポ 
 ジットにより数値実験と似たパターンが現実大気にも起こっていることを示し 
 た。しかし、ENSOが大気及び海氷に影響を及ぼしていると考えられるにしても、 
 海氷と大気の相互作用を調べるときにENSOを除かずとも解析の仕方で相互作用 
 が見られるのではないかと考え、今回は単純に1ー2月の2ヶ月平均の大気場 
 と海氷面積のラグを含む相関解析により大気・海氷相互作用を調べた。 
  海面気圧と大気下層(850hPa)の気温と海氷面積とのローカルな相関では、 
 海氷はオホーツク海で西風であり冷たいときに拡大するというほとんど自明の 
 結論を得た。また、東北地方以南の日本ではオホーツク海の海氷面積が広いと 
 気温が高くなる相関が得られた。この正相関は海氷が先の場合のほうが大きく 
 なり、海氷が日本の気候に与える影響を示唆している。 
  さらに、海氷が大気に及ぼすシグナルを取り出すために数値実験で得られた 
 500hPaでの応答をもとに指標を定義しこの指標との相関を調べた。日本・カム 
 チャッカ・アラスカ・北米の4地点の指標と海氷はほぼ同時かやや指標が早い 
 ときに最大の相関がある。ところがアラスカ・北米のみで指標をつくると、海 
 氷が1ヶ月早いときに最大の相関となる。このことからオホーツク海の海氷は 
 アラスカ・北米の大気循環に影響を及ぼしていると考えられる。 
  
 参考文献 
 Honda, M., K. Yamazaki, Y. Tachibana, and K. Takeuchi, 1996: Influence  
     of Okhotsk sea-ice extent on atmospheric circulation.  Geophys.  
     Res. Lett.,  23, 3595-3598. 
 Honda, M., K. Yamazaki, H. Nakamura, and K. Takeuchi, 1998: Dynamic and  
     thermodynamic characteristics of atmospheric responses to Okhotsk  
     sea-ice extent. (submitted) 

海底地形による form drag について (内本圭亮) 発表要旨:

  
 半世紀前に,Sverdrup,Stommel らによって先駆的な研究が行われて以来,風 
 成循環に関する理論は主に閉じた領域(例えば北大西洋や北太平洋)の gyre  
 に関して発展してきた.閉じた領域においては、力学過程の異なる 2 つの領 
 域に分けられる.内部領域(Sverdrup 領域)と西岸境界流領域である.内部 
 領域で南北に移動した流体が西岸境界流領域でもどる、というのがその理論の 
 大枠である.この理論では、東西に剛体壁(大陸)があるということが非常に 
 重要な要素となっている. 
  
 南極大陸の周りのドレーク海峡のある緯度帯は、緯度線に沿って地球を一周す 
 ることのできる海域である.つまりこの緯度帯においては、東西に剛体壁が存 
 在せず、Sverdrup の理論をそのまま適用することはできない. 
  
 この海域には偏西風が吹いており、それによって南極周極流(ACC)と言われ 
 る強い流れが存在している.ACC に関する重要な問題は、何が風応力と釣り合っ 
 て、実際に観測されている流量になっているのか?ということである.種々の 
 モデルでの研究の結果、海底地形による form drag が主として風応力と釣り 
 合っているものと現在では考えられている.  
  
 今回の発表では、form drag とはどういうものか?という説明と、form drag  
 に関する数値実験の結果についてお話する. 
  
 form drag の説明は 2 通り示す.1 つは圧力分布と地形の位相関係による説 
 明でもう 1 つは南北流に働くコリオリの力による説明である.  
  
 数値実験のモデルは、準地衡流グリッドモデルで、sinusoidal の底地形をも 
 つβ平面水路(無次元長さ 1×1)で行ったものである.静止状態に風応力 
 を与えると平均流の大きさは、底地形の波数より大きい波数のロスビー波の位 
 相速度程度になるが、それを平均流と formdrag の関係を用いて説明する.ま 
 た、パラメータを変えると平均流はいろいろな波数の共鳴流速近傍になるとい 
 う結果を紹介する.   

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357