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第 57 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1998年 12月 10日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:庭野 将徳 (大循環力学講座 DC1)
題 目:赤道下部成層圏における準2年周期振動にともなう鉛直流変動に関する解析

発表者:荒井 美紀 (気候モデリング講座 DC2)
題 目:順圧モデルを用いたblocking現象の維持・生成に関する研究

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赤道下部成層圏における準2年周期振動にともなう鉛直流変動に関する解析 (庭野 将徳) 発表要旨:

  赤道下部成層圏に存在する東西風の準2年周期振動 (QBO) によって駆動され 
 る子午面循環の変動は, 直接観測することが困難なため, 今まで主にモデルを 
 用いて調べられてきた. しかし, 同領域は放射バランスが微妙な領域であり,  
 その鉛直流変動はまだよく理解されていない状況である. そこで, 人工衛星 
 UARS 搭載の測器 HALOE が 1993-1998 に観測した大気微量成分データを使用 
 し, 水蒸気の季節変動が上昇していく速度から赤道域の下部成層圏における鉛  
 直速度を見積り, QBO にともなう変動の解析を行なった. 
  
  解析の結果, 見積もられた鉛直速度は Mote et al. (1998) による結果とほ 
 ぼ同じ鉛直分布をしているが, 低緯度に顕著な南北非対称成分が存在している 
 ことが明らかになった. その時間変動成分は QBO 成分が卓越しており, 20-50 
 hPa で 0.15-0.2 mm/s の振幅をもつのに対し, 年変動成分は同高度で 0.05 
 mm/s 以下, その上下の層でせいぜい 0.1 mm/s である.  QBO にともなう鉛直 
 流変動は温度の QBO 成分とほぼ逆位相の変動をするが,ラグ相関の結果, 逆位 
 相よりも鉛直流変動の方が 30-50 hPa で 2-5 ヶ月先行していることわかった.  
 この位相関係は力学のみを考えたモデルでも,力学と放射-化学反応とが相互に 
 連動したモデルでも再現されていない. また,鉛直流変動の振幅は, 30-50 hPa  
 で緯度幅約 15 度の赤道中心の極大を示すが, 南半球低緯度の 40 hPa より上 
 層と, 北半球低緯度の 30 hPa より上層にも振幅の大きい領域の存在が認めら 
 れた. この低緯度域の大きな偏差は各半球が冬の時に同期して出現しており,  
 低緯度におけるオゾン QBO の振幅, 位相の南北非対称性を良く説明できる. 
  
  鉛直流変動が温度 QBO と逆位相であるよりも数ヶ月先行する原因を調べるた  
 め, 放射-光化学の効果を取り入れた Ling & London (1986) のモデルに観測 
 値を代入して, 原因の考察を行なった. その結果, 熱力の式とオゾンの連続の 
 式のどちらの場合にも, 系統的な残差項の存在する可能性が示唆される. 前者 
 の残差項は, 上昇流偏差が最大から減少するの時期に必要とされるが, その原 
 因は今のところ不明である. 後者の場合に現れる残差項は, Huang (1996) に 
 よって示唆されているオゾン全量の変動により O2 の光解離係数が QBO 変動 
 する効果で説明できるかも知れない. 

順圧モデルを用いたblocking現象の維持・生成に関する研究 (荒井 美紀) 発表要旨:

   中緯度対流圏で起こるblocking現象は、 
 1) 同じような流れの形(南北dipole)を持つ。 
 2) 長時間持続する。 
 という特徴を持っている。Shutts(1983)では、この2)について南北に分流する 
 大規模な基本場が、総観規模の擾乱の東西スケールを縮めると同時に南北スケー 
 ルを伸ばし、この変形を受けた擾乱がblockingを強制するように働くという 
 eddy straining hypothesisを提唱した。これは、Haines and Marshall(1987) 
 によって等価順圧渦度方程式の定常解であるmodonを基本場として、擾乱を加 
 えた数値実験でも確かめられた。 
  
   これら2つの研究ではblocking時の基本場の維持に主眼が置かれたものであっ 
 たが、Pierrehumbert and Malguzzi(1984)は順圧渦度方程式を時間積分した結 
 果、modonに良く似た大きい振幅の解と小さい振幅の解が存在することを示し、 
 blocking時と通常のzonal flowが夫々にあたり、blockingの生成と消滅はこの 
 間の遷移によるものであるという概念を提示した。 
  
   これらを踏まえて本研究では 
 1) 多重平衡解が等価順圧渦度方程式にも存在してPierrehumbert and Malguzzi 
    と同様な描像が描けることを示す。 
 2) 現れる多重解の安定性を議論し、その遷移の可能性について調べる。 
 3) Haines and Marshallと同様にmodonを基本場として擾乱を加えた結果を吟 
    味し、この概念がblockingを表現するに足るものであるかを評価する。 
 を行いたいと考えている。現在1)の途中なのでその結果を報告する予定。 

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359