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第 56 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1998年 11月 26日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:細田滋毅 (極域大気海洋学講座 DC3)
題 目:北太平洋の大気場の長周期変動に対する海洋の応答

発表者:増田 良帆 (気候モデリング講座 DC1)
題 目:北太平洋decadal水温振動における、curlτ=0ライン変動の効果

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北太平洋の大気場の長周期変動に対する海洋の応答 (細田滋毅) 発表要旨:

  1976-77 および 88-89 にかけて、北太平洋の大気場の変動が見られ、それ 
 に伴うようにSSTにもその変動が現れていることは良く知られているが、その 
 様な長周期変動の trigger が何かはまた分かっていない。この様な長周期の 
 変動には、海洋が重要な役割を果たしている可能性がある。それを解明するた 
 めの研究は多く行われているが、海洋から大気へのfeedbackにとって重要にな 
 ると思われる海洋の亜表層以深について調べた研究はそれほど多くない。海洋 
 内部の長期にわたる観測が非常に少ないのも理由の1つである。 
  そこで本研究は、海洋大循環モデルを用いて、現実の大気場の変動として 
 monthly mean の NCEP再解析データを forcing として与えたときの海洋の応 
 答を調べる。ただし forcing には、問題を簡単にするために、今回は特に風 
 応力と塩分(P-E:降水-蒸発量)それぞれについての変動をモデルの境界条件 
 として与え、1958年から87年までの 30 年間のモデルの結果を用いた。 
 ・風応力の変動のみを考慮したモデルの結果: 
 水温 anomaly を見ると、観測結果からの、1976から77年の気候シフトに伴う 
 黒潮続流付近・中部太平洋と、北米沿岸とが異符号で変動するパターンに非常 
 に近い分布が現れた。これら 3つの 領域の水温 anomaly の形成過程は異なる 
 と考えられるが、北太平洋全体のパターンの形成に風応力の変動の効果が重要 
 な役割を果たしていることが考えられる。 
 ・風応力+塩分変動を考慮したモデルの結果: 
 最近塩分分布の変動についてのデータ解析も行われはじめている。塩分は水温 
 と異なり、少なくとも亜熱帯循環内では力学的な効果は小さいが、長周期変動 
 の指標としては重要な要素と考えられる。そこで、海洋の塩分分布に効いてく 
 る大気場の P-E 変動を調べ、それによって形成される塩分 anomaly の伝播を 
 調べた。P-E anomaly は 長周期変動に関して SST anomaly の変動とほぼ同様 
 の時間的なパターンが見られ、変動の中心は北太平洋中部であることがわかっ 
 た。そして塩分のシグナルは、ほぼ等密度面にそって亜熱帯循環内に沈み込ん 
 でいく様子が見られ、塩分を追跡することで大気場の長周期変動の伝播を調べ 
 られることが示唆された。 

北太平洋decadal水温振動における、curlτ=0ライン変動の効果 (増田 良帆) 発表要旨:

  1980年代の後半から北太平洋の海面水温場(SST)などについて、長期変動に 
 関する詳しい解析が行われ、decadalスケールの変動が 存在することが明らか 
 にされた。SSTについては、1976年以降、太平洋中央部 の楕円状の領域で低下 
 し、北米沿岸の領域で上昇したことが見いだされている。  
  このdecadal水温変動を引き起こすメカニズムについては、今まで様々な提案 
 がなされてきた。その多くは、1976年以降、PNAパターンの強化に伴って偏西 
 風が強化され、エクマン輸送や熱fluxの増大によって太平洋中央部の温度低下 
 が生じたと考えている。  
  ただ、PNAパターンの強化はcurlτ=0ラインの南下をもたらしており、これが 
 decadal振動に寄与している可能性も十分に考えられる。よって、このメカニ 
 ズムの影響を調べることを考えた。 
  
  本研究においては2種類の1.5層モデルを用いて数値実験を行った。1つはプリ 
 ミティブモデル、もう1つはポテンシャル渦度を保存するような準地衡流モデ 
 ルである。これらのモデルにおいて、curlτ=0 ラインを20年周期で振動させ、 
 海の応答を調べた。  
  プリミティブモデルにおいては、decadal水温変動への寄与が考えられる様な 
 2つのメカニズムが見い出された。1つはinterfaceの上下振動であり、もう 
 1つは東岸付近で生じるgyre間の水塊交換である。 
  準地衡流モデルにおいて得られた結果はプリミティブモデルのものと幾分異なっ 
 ているが、この解釈についてもお話しする予定である。 

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359