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第 55 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:1998年 11月 19日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:低温科学研究所 2F 大講義室

発表者:岡田 直資 (気候モデリング講座 DC2)
題 目:部分的に海氷に覆われた海域における対流の数値実験

発表者:笹井 義一 (気候モデリング講座 DC2)
題 目:北太平洋における大気と海洋の間のCO2フラックスの季節変化の再現について

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部分的に海氷に覆われた海域における対流の数値実験 (岡田 直資) 発表要旨:

  グリーンランド海や地中海で、開水面で表層から深層まで達する鉛直対流  
 (open ocean deep convection) が起きる際に、plume と呼ばれる水平方向に 
 細胞状の構造を持った下降流と上昇流が生じることが観測されている。一方、 
 部分的に海氷に覆われた海域に大気からの冷却が加わり、海氷に覆われた部分 
 よりも覆われていない部分で、より速く海氷が生成され、より多くのブライン 
 が排出されるという状況では、open ocean deep convection と比較して、水 
 平方向に非均一な負の浮力フラックスが海洋表層に加わる。特に、浮力フラッ 
 クスが加わる領域の構造の水平スケールが plume の大きさと近い場合、対流 
 の過程が open ocean deep convection のそれと異なることが予想される。 
  
  そこで、非静水圧 3 次元モデルを用いて数値実験を行い、このような状況で 
 の対流の過程について調べた。実験の結果、対流の過程がフォーシングの水平 
 スケールの構造の大小によって異なることが分かった。また、重い水塊の生成 
 される量が水平スケールが大きいほど大きくなり、対流過程の異なりがその違 
 いをつくり出す要因の一つであることが分かった。この結果は、ブラインの排 
 出によってできる高密度水の密度は、1つ 1 つの開水面(ポリニアやリード)の 
 大きさに依存することを示唆している。 

北太平洋における大気と海洋の間のCO2フラックスの季節変化の再現について (笹井 義一) 発表要旨:

   大気と海洋の間のCO2フラックスは、気体の交換速度と大気と海洋との間の 
 二酸化炭素分圧(pCO2)差によって決まる。海洋表層中のpCO2の季節変化の方 
 が、大気中のpCO2の季節変化よりも大きいので、主に大気と海洋との間のCO2 
 フラックスの季節変化の原因となっている。海洋の亜寒帯域や寒帯域において、 
 表層水中のpCO2と全炭酸濃度が、夏季に比べて冬季に高い値を示すことが観測 
 されている。すなわち、この海域では冬季の間、海洋から大気へCO2が放出さ 
 れ、夏季には逆に吸収されている。この季節変化は、主に冬季の高濃度の全炭 
 酸を含む深層水との鉛直混合と、夏季の生物生産によって説明されている。一 
 方で、亜寒帯域では、冬季の間、海洋がCO2を吸収し、夏季にCO2を放出してい 
 る。この変化は、主に水温により説明される。 
  
   大気と海洋の間のCO2フラックスを直接求めるには、海洋表層のpCO2の時間 
 と空間のデータが少ない。海洋表層の直接観測のデータも時間、空間で不規則 
 である。そこで、モデルを用いて、時間と空間で内挿することにより、よりよ 
 いCO2フラックスの見積りをすることができる。そして、混合層の発達、炭素 
 サイクル、栄養塩濃度、生物生産の妥当な分布を再現するために、北部北太平 
 洋のCO2フラックスの季節変化を取り扱う。本研究では、混合層発達期の鉛直 
 混合と生物生産のCO2フラックスに対する役割に焦点をあてる。 
  
   本研究では、鉛直1次元を仮定したバルクモデルを用いて、北太平洋におい 
 けるCO2フラックスの季節変化の再現を行なった。モデルの初期値は,WOA94の 
 水温・塩分を,モデルの駆動力として大気客観解析データ(ECMWF&NCEP/NCAR) 
 をそれぞれ用いた.計算した期間は,1994年10月1日〜1995年9月30日までの1 
 年間である. 
  
   その結果、全炭酸、pCO2、栄養塩の冬季と夏季の値の差は、観測と比較して 
 妥当な差を再現することはできた。しかし、初期値と一年間計算した最後の値 
 とに大きな差がみられた。今回の発表では、再現された季節変化についての結 
 果と、初期値や生物生産に対する係数を変えた時の感度実験も行なったので、 
 その結果についても報告する予定である。 

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連絡先

水田 元太 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学講座
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359